ケアンズ通信

20. オーストラリア住宅事情 ~ゴールドコースト

ジェットスターというオーストラリアの航空会社は、日本でも知られているのだろうか?カンタス航空の子会社で、日本との間にも直行便を飛ばしている低料金が売り物の新しい航空会社だが、この会社のオーストラリア内でのコマーシャルやポスターには、モデルが両手と両足を広げてジャンプしている写真(身体の形が星に見えるため、スターサインという)がずっと使われていた。数年前にジェットスターが就航した際には、コマーシャルの撮影のために一般人のオーディションも有り、私の友人の何人かもオーディションに行ってこのスターサインをやらされていた。

思いっきり飛び上がって手足を広げるこのポーズ、お金を貰えなくても、テレビに出なくても、思わずやってみたくなる場所が有る。それがオーストラリア東海岸の中ほどに位置するゴールドコースト。青い空、透き通る海、白い砂浜。美しいビーチのすぐ側には高層ビルが建ち並び、その解放感溢れる街並みはまさに「南国のリゾート」という感じ。年間の平均気温が約24度、雨の日が少なく、一年のうちで人が心地よいと感じる温度の日数がオーストラリアでは一番多いとされるこの街は、世界中からの旅行客で年中賑わっている。ゴールドコースト中心に位置するサーファーズパラダイスには高層ホテルが立ち並び、海側の部屋からはどこまでも続く青い海と白い砂浜が見渡せる。サーファでない人にとってもパラダイスな街だ。サーファーズパラダイスのビーチに行けば、解放感を身体全体で表現するために、思わずジャンプしてスターサインをしたくなってしまう。ゴールドコーストはそんな街だ。

サーファーズパラダイスビーチの朝。写真を撮る旅行客、ジョギングをする地元の人、誰もが思い思いに美しいビーチを満喫しています。(写真ソース:http://www.goldcoastinfo.net/)

ここゴールドコーストは不動産投資の場所としても有名な街。海を見下ろす高層マンションや、運河沿いに建つ専用船着き場付き豪華一戸建てなど、ため息の出るような不動産も多い。観光客に人気のリバークルーズの中でも、ガイドさんが運河沿いに建つ豪邸を指さして、「あの家はハリウッドスターXXXさんの家、その隣は去年の長者番付一番のXXXさんの家です。その隣はこの辺りで一番高い家で、昨年XXミリオンドルで売られました」といった不動産解説が入る。

1980年代後半の日本のバブル期には日本企業がゴールドコーストの不動産を買い漁り、地元のオーストラリア人は「この街はこのまま日本に乗っ取られるんじゃないか」と心配したそうだが、現在はさすがにその勢いは無いにしても、ゴールドコーストはハワイと並んで日本人には依然として不動産購入地として人気の場所で、ゴールドコーストに不動産を持っている日本の芸能人やスポーツ選手も少なくない。

私が約一ヶ月半研修を受けることになった日系の大手不動産会社では、ゴールドコーストの不動産を日本人のお客さんに販売し、その後の不動産管理、そして売却という業務をこなしていた。この会社のお客さんはゴールドコースト在住の日本人ではなく、通常は日本に住んでいるという日本人が圧倒的だった。研修期間中、私は敏腕営業マンのHさんについて、日本のお客さんへの家の案内や、日本人のお客さんが所有している物件の売却のための案内に同行させて貰った。

勤務初日、日本人のお客さんが所有している物件を売りに出すとのことで、Hさんと一緒にそのマンションを見に行った。サーファーズパラダイス中心部から徒歩5分程の場所に建つ寝室二つのマンションを、お客さんは数年前に日本円約5000万円で購入されたとのこと。別荘としてその物件を使われていたようだが「海外に5000万円の別荘?お金持ちっているのね~」。不動産のフの字も知らなかった当時の私は、ただただ驚いたものだ。その後ゴールドコーストで案内した(見習いの私は同行しただけだが)物件は二十件弱だったと思うが、初日に驚いた5000万円のマンションは安いほうで、高いところでは日本円で約12億円という気が遠くなるような物件もあった。この物件は運河の前に建つ、いわゆるウォーターフロント物件で、専用船着き場、プール、テニスコート、屋内シアター付きの大豪邸で、日本でなら誰もが知っている超有名人の代理の方に案内したのだが、「ウォーターフロントだとファンが船に乗って押しかけることも考えられますね」と代理の方が心配するのを聞いて、「芸能人っていうのも大変だなぁ」と心から気の毒に思った。

運河の前に建つウォーターフロントの豪邸。ゴールドコーストでは、家の前から自家用ボートやヨットでお出かけ、という光景も少なくありません。

オーストラリアでは、長期滞在出来るビザ(永住権やビジネスビザ、投資ビザ等)を持たない外国人は、特定地域を除いては新築物件しか購入出来ない(中古物件の購入は出来ない)という法規制が有る。ゴールドコーストで特定地域に当たる地域はいずれも有名なゴルフコースを含む壮大な敷地の中に展開する高級住宅地で、この中の物件は中古といえども、日本円で一億円を下らない家ばかりだ。新築物件は安い物でも5000万円くらいするゴールドコーストで、日本の人が不動産を持つのは簡単ではないだろう、と考えるのは私のような庶民だけ。実際には多くの日本人がゴールドコーストで不動産を購入している。

どういう人達が購入しているかというと、購入するお金を持っているという点は共通するところだが、年齢層、職業、購入目的は実に様々だ。

会社や家族用の別荘として購入する人、リタイア後に夫婦二人で海外生活をするという人、子供の留学に付き添うお母さんと子供が暮らすために購入する人等々。ゴールドコーストは気候が良いだけでなく、治安も良く、日本語機能の有る施設も多い。年齢を問わず、多くの日本人にゴールドコーストが人気である所以だろう。

ゴールドコーストでお会いしたお客様の中に、私と同年齢の奥さんと、奥さんよりも二周り以上年上のご主人、小さなお子さんがお二人というご家族があった。運河の前の豪邸に住んでいらっしゃったが、更に広い所へ買い替えを考えられていて、いくつか物件のご案内をした。奥さんはどちらかというと飾り気が無くサバサバとした感じの人で、いわゆる「おっとりしたお金持ちの奥様」タイプには見えなかった。結婚される迄は大手企業で働くバリバリのキャリアウーマンだったと聞いて、「頭の切れそうな女性だものなぁ」と納得した。一年の半分はゴールドコーストで、残りの半分は軽井沢の別荘で過ごすという話を聞き、自分の暮らしと比べ、同じ女性でも色々な人生が有るんだなぁと、しみじみと思った。

別の女性のお客様で覚えているのは、前述の奥さんとは見た目が全く逆のタイプ。年齢は三十台後半くらい、フェミニンな白いワンピースに、高いピンヒールの華奢なミュール、シャネルの大きなサングラスとつば広の帽子、レースの手袋をしたか細い腕には金のバングルとダイヤきらめく腕時計、ハンドバックはもちろんヴィトン。長い栗色の髪は優雅にカールし、日本の婦人雑誌から抜け出てきたような彼女の装いは、Tシャツ、短パン、ビーチサンダルという格好で街を闊歩する人が殆どのサーファーズパラダイスでは、とても目立っていた。海が見えるマンションを買いたいという男性のお連れだったが、40代と思しきこの男性も、いかにも「仕事は自由業」という感じで、ルックスも悪くない。

物件案内をしている間、男性は部屋の細かい仕様を確認したり、Hさんに専門的な事を質問したりしていて、「このドアどうやって開けるの?」とか「ハワイで見たヤツと似てるじゃ~ん」と言う連れの女性を完全に無視していた。ちょっと女性が気の毒になり「ハワイにもよく行かれるんですか?」と私が声をかけたところ、女性はその時初めて私の存在に気がついたように私を眺め(もちろん初めに会った時に自己紹介はしたのだが)、「まあね」と言って会話は打ち切られた。

案内が終わり、手をつないで去っていく二人を見送った後、「感じは悪いけど、綺麗な彼女ですよね」とHさんに言ったところ、Hさんは笑って「彼女でも何でもないと思うよ。ただのお水だよ、お水」と答えた。Hさんのコメントにはかなり驚いたが、色々なお客さんに接しているHさん、さすがにするどいなぁと感心した。Hさんの一言で「イケメンのお金持ちの彼氏に連れられて海外で不動産購入をする幸せな女性」という私のイメージは粉々と崩れ落ちた。同じ女性でも色々な生き方が有るんだなぁと、ここでもまたしみじみと思った。

私はゴールドコーストで約1ヶ月半過ごした後、2007年3月にケアンズへと移ったが、ゴールドコーストの街は想像していたよりもずっと素敵な街だった。歴史的建造物の残るメルボルンと比べ、新しい建物が多いゴールドコーストに対して「観光客用の街」「人工的な街」というマイナスなイメージを持っていたが、実際に暮らしてみると、予想以上に快適で過ごしやすい街だということがわかった。何と言っても美しいビーチがすぐ目の前というのは、何物にも代えがたい暮らしだ。

ゴールドコーストの不動産は2008年をピークに価格が下がり、また円高の影響も有って、現在は、私がゴールドコーストに居た頃よりも日本の人にとっては買いやすい状態となっている。ゴールドコーストに不動産を所有する日本人が、今後は更に増えるかもしれない。

ゴールドコーストには夢が有る。それまで出来なかった事もゴールドコーストでなら出来そうな気がする。「日本社会」という箱の中に入って生活していた私達も、ゴールドコーストでは思いっきり手足を伸ばして、新しい目標に向かってジャンプしてみようという気持ちになる。

今日もまた、サーファーズパラダイスのビーチのどこかで、解放感に酔いしれた誰かが、スターサインをしているに違いない。

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