Did you know that?

37.オレゴンから愛をこめて「From Oregon with Love」

東日本大震災にて被災された皆さまに、心よりお見舞い申しあげます。またお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りし、ご遺族の皆さまに深くお悔やみ申しあげます。

その日、夫と私はポートランドの自宅で、大学の春休みで久しぶりにアメリカに戻って来ていた息子と遅い夕食をとろうとしていた。
ところが、突然、息子のiPhoneに東京の友人たちから、
「僕は大丈夫」「私も大丈夫」「生きてる!」
等というメールがたくさん入ってきた。
「お母さん、東京で何かあったらしい。地震かもしれない……」
娘は、妹家族は大丈夫だろうか。私は飛びつくように日本の放送テレビジャパンをつけた。信じられない光景が目に入ってきた。初めて見る上空から写されている津波の脅威に足はガクガクと震えじっとしていられない。日本中の人が恐怖におののいていた瞬間だっただろう。私はテレビを見るも恐ろしく、落ちついて何をどうすることもできない。その後気仙沼の火事を見た時、この非常時に燃えている町中の火を誰が消すのか。誰が人々を助けるのか。もう燃えるもの全てを燃やし続けるしかないのではないかと絶望感にひたった。
息子に届くメールから察すると、東京近隣では大きな被害が出ているようなイメージではなかったが、とにかく大学受験のため一人で東京に残っている娘の安否を気遣った。電話が通じないことはわかった。娘からは、その後しばらくして無事であるメールが入り、翌日スカイプもできた。

災害によって電話が通じない時、「メール」や「スカイプ」は、世界中に交信できる最強の手段であるという現代社会の技術の偉大さを知った。

コンサートのためのチラシ

さて、世界中から日本への思いが募った義援金が集められ、避難されている方々にも支給され始めていることと思う。私が住むオレゴンでも、震災後すぐに多くの方々が動き始め、義援金が送られた。私自身も関わったものがあり、ここに「オレゴンから愛」と題したいくつかの募金活動を報告したいと思う。

 

まず、3月16日には、以前から計画されていた観世流能と大蔵流狂言のアメリカ公演ツアーの初日が控えていた。しかし、この大地震の4日後このツアーに関わっておられる24名の方々が揃って日本を発つことができるかどうか不安であった。ポートランドでのチケットは完売であり、公演を心待ちにしている人も多かった。幸い流派の本拠地が関西で直接的な被害がなかったため、予定通り挙行されることになった。このツアーに企画から関わり、ポートランド公演の責任者であった夫は、公演ができることに感謝しながらも、かつてない大地震直後の公演に心を痛めていた。夫と私は「私たちにも何かできないだろうか」と話し合い、この会場に募金箱を設置することにした。夫は満席の会場に募金を呼びかけた。観客は惜しみなく現金を、チェックを書いて募金してくれた。5200ドルものお金がこの夜数時間の間に集まった。その後も大学では、日本人留学生を中心に、この地方の太鼓グループなどと協力し募金活動を続けている。

私には、いくつか所属している団体がある。まず「ともだち会」という日本人女性とアメリカ人女性の文化、友好団体である。130名程の会員が月に一度集まって、イベントや講演会を開く。3月4日には「ひな祭り」、4月には「アメリカンキルト」の講演会が催された。募金の呼びかけをした。「American Red cross アメリカ赤十字社」あるいは、*-1「Mercy Corps」にチェックを送ってもらうこと。イベントに参加した人は募金箱にお金やチェックを入れてもらった。多くの人たちの協賛を得た。

イベント会場に設置された募金箱。自分の手作り作品を寄付し募金を募る人もいた

募金の一環で何種類かのTシャツが作られた

日本人学校補習校でも募金箱を設置し、子供たちも自分のお小遣いの中から寄付をした。日本人学校の経営に携わっているポートランド商工会でもウェブサイトを通した募金が呼びかけられた。こちらも「Mercy Corps」を通して、25万ドル程の義援金が集められた。

3月17日、私はこの地方で日系人会のリーダーとして活躍し、旅行会社を経営するDozonoさんから電話を受けた。
「27日に*-2『From Oregon with Love-オレゴンから愛』と名うった義援金集めのコンサート企画している。*-3 Pink MartiniのThomas Lauderdaleが主体となってボランティアのミュージシャンを集めているので、寿美、ともだち会のコーラスのグループで歌ってくれないか」
「私たちは素人のおばさんコーラスよ。それにそのようなプロと一緒の舞台になんか立ったこともないし……」
「そんなことは関係ない。このコンサートで日本人が日本の歌を歌うことが大切なんだ。そしてできれば、日本人学校の子供たちも出演してくれれば、もっと訴えるものがあると思う。寿美、どうにか調整してくれないか」
「わかりました。そのようなことなら、素人だろうがうまくなかろうが、私たちの日本への気持ちを伝えるような歌を歌います。コーラスも日本人学校も交渉してみます。だけどこれは自分だけでは決められないので、少し時間をください」

その日、私はコーラスの仲間たち15人に連絡をとったが、全員すぐに『出演しましょう。日本への義援金を集めるために!』と意見が一致した。問題は、日本人学校であった。ポートランド日本人学校補習校には、現在幼稚部から高等部まで約360余名の生徒がいる。募集案内をだしてからコンサート当日まで9日しかない。何人か出てくれるだろうか。学校は学年末と卒業式で忙しく、集まって歌の練習する時間さえとれない。それに子どもたちに出演してもらいたいが、親の同意無しには何もできない。チャリティーコンサートの場合、出演者も席に座って観る場合、チケットを買わなければならない。子供たちを出演時間まで舞台裏に何時間もとどめておくことはできない。ところがチケットは1枚38ドルから100ドルだ(手数料8ドル20セントが加算される)。子供の出演に伴って親や兄弟姉妹の分までチケットを買うと、コンサートを観るにしても一家族の負担は大きくなる。出演に同意してくれる親がいるだろうか。これらの難題に不安ばかりがよぎった。私は、Pink Martiniの名前を出したチラシを作り、学校側と協力し保護者の協力を呼びかけた。幸い46名もの参加者を募ることができた。

日本人学校補習校の子供たちは、「赤とんぼ」「故郷」を歌い終わった後、Standing Ovationの喝采を受けた

しかしこれには裏話があり、私は子供たちのチケットを誰か払ってくれるスポンサーがいないかを模索し、Dozono氏に相談した。驚いたことに彼が会社を通してスポンサーになって、子供たち全員のチケット代を払ってくれると言ってくれたのだ。彼の心の広さ温かさに頭が下がる思いだった。彼はまた、コンサート開催にあたって、この地方の大手企業から協賛金として数千、数万ドル単位で義援金を集めて回っていた。

コンサートの出演者も決まり着々と準備が整う中、Dozono氏から電話がかかってきた。
「寿美、『Saori Yuki』って知っているか。どんな人だ。将来コンサートを開くかもしれないので、ちょっと知っておきたいのだ」
「えっ?それって『由紀さおり』さんのことかしら。素晴らしい歌手であり俳優さんで、日本では知らない人がいないくらい有名な人よ」
「そうなのか。まだ秘密なので公表できないけれど、実はこのコンサートのために由紀さおりさんがポートランドに来て出演してくれるかもしれないんだ。ハッキリきまったら、すぐに知らせるから……」

この話は現実のものとなり、Thomas Lauderdaleが由紀さおりさんの歌声に魅了され、彼のアルバムの中で歌ってもらうことを頼んだのがおつきあいの始まりだそうだ。今度は由紀さおりさんの新しいアルバムに Thomas Lauderdaleが関わることになったので、忙しいスケジュールの合間をぬって応援に駆けつけてくださった。由紀さんは、ポートランドに着かれたその足で、Thomas Lauderdaleと一緒に日本人学校にも来て「ふるさと」を歌ってくださった。地元のテレビ局も来て、日本人学校は大騒ぎだった。由紀さおりさんに会えた感動で泣き出す人もいるほどだった。

会場で感謝の言葉を述べられる由紀さおりさんとPink Martini。左端が主催者のThomas Lauderdale

由紀さおりさんとPink MartiniのボーカリストChina Forbes。由紀さんの胸には折り鶴のブローチがつけられている

バックステージでのThomas Lauderdaleと由紀さおりさん

コンサートは、初め夜7時の公演1回だけ企画されたが、すぐにチケットが売り切れてしまい、午後2時のコンサートが追加された。このチケットも完売であった。この日2回のコンサートで集まった義援金は、企業の協賛金も入れて26万2000ドル。Pink Martiniの名声によるものも大きいが、個性あふれる出演者に魅了された人々も多かっただろう。私は、Storm Largeという歌手を知らなかったが、彼女が言った言葉が忘れられない。
「私たちほとんどのミュージシャンは、お金がなくていつも破産状態よ。このような災害時、誰かを助けるために大金を寄付することなんて残念ながらできないの。でもね。歌うことはできるわ。歌って大変な人たちを勇気づけることはできるわ。さあ、歌うわよ!」

素敵なStorm Large

彼女の陽気さ、おしゃべりの楽しさ、気さくな人柄に加え歌の素晴らしさに私はすっかり魅了されてしまった。
この企画に賛同し出演してくれた人たちは、ミュージシャン、オペラ歌手、バイオリニスト、琴奏者、バレーダンサー等、多岐にわたって活躍する人たちだった。2時のコンサートは3時間。7時は、オークションも含め4時間ものコンサートになった。観客は、同じステージで多くの芸術家たちのバラエティ豊かな音楽を楽しんだ。私の友人が言った。
「このようなコンサートには行ったことがないわ。今までで一番素晴らしいコンサートだった」私もそう思った。

私の責任は、日本人学校の子供たち5歳から18歳までの出演と会場内での安全であった。コーラスグループを加えると68名もの人が関わっていた。しかし、この5歳の子供たちもずっと自分の席に座って3時間のコンサートを鑑賞した。コンサートがいかに素晴らしく楽しいものであったかの証しである。

私の友人佳枝さんは、自分にできることは何かと考えた。パンを焼くのが趣味であることを生かし、友人たちにパンを買ってもらいそれを義援金にすることにした。16個のパンをセットとして20ドルで買ってもらう。友人たちが次々に注文し、彼女は1ヶ月で1200ドル近くを売り上げ「Mercy Corps」に義援金としておくった。次の目標も定めている。

スイカ模様のクール・タイ。布の中にポリマーが入っており、水に15分程浸すと水分を吸収し膨らむ。数日間冷たく保たれ、何回も使用できる

久美子さんは、所属する教会で友人たちとバザーを企画した。有志を募り寿司、クッキー、ケーキ、パン等の食品から、手芸品、服などを寄付してもらい、400人もの人が集まり1万ドルを一日で売り上げた。この売上金は、教会の有志4人が自費で仙台に出向き、被災地に届けられた。また彼女は、ご主人の提案で、中東に駐屯するアメリカ軍の兵士たちに送られた*-4 クール・タイのことを調べ、原発の影響で教室の窓も開けられない福島県周辺の子供たちにこのクール・タイを送ることを企画した。福島に住む友人と連絡をとり合い、夏の暑さを凌いでもらおうと5月末までに5000本を作って送る作業を進めている。これには日本人ばかりでなく、この地域に住むビルマ人、中国人、アメリカ人等、彼女の友人知人が総出で手伝っている。5000本を作るのは、経費もかかり人手もいる。中途半端なボランティアでできることではない。頭の下がる思いである。

友人のご主人が勤務されている有名なハイテック会社では、社員が一丸となって200万ドルの義援金を集めた。会社に同額の寄付(*-5 matching gifts)を依頼し、計400万ドルの義援金になったそうである。大企業の素晴らしさだと思う。

この地方の高校や諸団体では、小さな折り鶴に安全ピンをつけブローチにして募金を呼びかけた。寄付は自由だけれど、もらった人は必ず募金をしてくれたそうである。折り鶴については、別の企画もあった。先日ある私立学校で「春祭り」が開催された。今年は例年とちがい、この学校に子供を通わせる日本人の親たちが協力し、「日本の地震のための救済ブース」を作った。私たちコーラスグループも野外舞台で歌い協力した。食べ物や手芸品などを売るコーナーもあったが、私が面白いと思ったのは、「折り鶴とナイキの靴コーナー」であった。折り紙で鶴を1つ折ると、ナイキ”NIKE”の子供靴が1足被災地に寄付されるという企画だ。これにはいくつかの規則があり、「① 折り鶴を折るためには2ドルの寄付をする ②子供が自分で折らなければならない(教えてもらいながら)③折った人は鶴を用紙につけ、名前と学年を明記する」といった具合だ。これはこの地域にナイキの本社がありそこで働く親たちも多いので、このような要請が成り立ったとおもう。この学校からナイキの子供靴と寄付金が被災地に送られる。

一人一人の力は小さいけれど、協力すると大きな力になると、活動を通して思った。世界中でいろいろな人たちが、自分ができることを通して日本を、日本人を応援し続けていると思う。沈んでいた私の心は少しずつ癒されてきている。

由紀さおりさんがポートランドに来て歌ってくださったことは、故郷を案ずる多くの日本人に元気を与えてくださったと思う。そして、たくさんのアメリカ人が由紀さんの美しい歌声に魅了されたことだろう。
「日本に帰りましたら、オレゴンの皆さんが日本のことを思いこのような素晴らしいコンサートを開いてくださったと伝えたいと思います」と優しくも凛として言われた時、感動し涙がこぼれた。由紀さおりさんは、舞台に立たれた姿も美しく、その歌声は、人の心に深く響いた。これからも日本を代表する歌手として、世界中の人たちに美しい歌声を届けていただけたらと願っている。

被災された方々のこれからのご苦労、心痛は計りしれない。私がここで紹介した日本への支援活動は、ほんの一部であり、今も続いているもの、また今後企画されている義援コンサートなどもある。原発の問題もまだ深刻な中、私たちができることは、被災地に対する援助を長く続けていくことではないだろうか。

*-1:ポートランドに本拠地におく義援団体
Mercy Corps helps people turn the crises they confront into the opportunities they deserve. Driven by local needs, our programs provide communities in the world’s toughest places with the tools and support they need to transform their own lives. Our worldwide team in 36 countries is improving the lives of 19 million people.



*-2: 1985年、フジテレビ系で「From Oregon with Love-オレゴンから愛」という東オレゴンを舞台にしたテレビドラマが放映された。その題名をとって、このコンサートの主題にとりあげられた。素晴らしい「テーマ」だと思った。まさに「オレゴンからのたくさんの愛]である。



*-3: Pink MartiniのThomas Lauderdale (pinkmartini.com)
Pink Martiniはオレゴンを拠点とする世界的に有名なグループである。Thomasは、日系人会や老人ホームなどよく慰問し、人々に元気を与えている。昨年も同じようなコンサートをハイチ地震のために行い、義援金を送った。このコンサートの3日前、「寿美、女性コーラスと日本人学校の打ち合せをしよう」と気軽にわが家に来てくれた。その上素晴らしいピアノを聞かせてくれた。その人柄とピアノの音色に夫と私は感動し、益々大ファンになった。



*-4: クール・タイ(Cool Ties)
中東のアメリカ軍の兵士たちが、冷房もなく慣れない暑さに苦しんでいたのを少しでも助けるために、兵士の家族たちによって考案され送られたのが始まりらしい。布の中に入れるポリマー(plymer)は、水がないときは小さくさらさらとした粒状だが、水を含むと風船のように膨らみ、ゼリーのようになって固まる。水を吸うと元の粒子の20~50倍の体積になる。福島第1原子力発電所で作業用の穴に高濃度の汚染水が溜まり海に漏れる問題がおきたときも、亀裂をふさぐためこの「高分子ポリマー」が使われたようだ。紙おむつや保冷剤、園芸用の保水剤、携帯用トイレなどにも使われている。



*-5: 従業員がなんらかの社会貢献(ボランティアや寄付など)を行うとき、 その労働や経費にあった(Matching)金額を雇用主が支援する仕組み。アメリカでは、学校のボランティア等についても、社会貢献とみなし、企業に労働力に見合う寄付を依頼する。

このサイトは翻訳学校サン・フレア アカデミーの運営です。

PAGETOP