ロンドン通信

秋のはなし

「仲秋の名月」

今年は本当に美しい満月を見せた…と、欧州版日本の新聞に読んだ。

旧暦の8月15日に、必ずしも満月となるわけではない…ということも、その記事で知ったのだが、今年は、6年ぶりで満月になったのだそうだ。日本の友人たちからも、夜空の美しい月の写真がメールで送られてきた。

お月見といえば、餅をつく兎とススキ、である。

10年来使っている箸置き

ロンドン近郊の野原に、それはそれは美しい、銀色の穂もたっぷりとした立派なススキが群生しているのを見つけたのも、ちょうどその頃だった。

お月見という、あまりに東洋的な情緒を抱えつつ目に捉えた光景が、私の感覚にごく自然にピタリとはまったことが、とても嬉しかった。

その前から、もう、ずいぶん気温が下がってきていて、とっくに夏は終わっていたのだからまさに「秋」たけなわ、というところだったのだ。

ただ、まだ「サマータイム」の終わらない9月半ばの英国では、夜8時近くになってやっと日没を迎えるので、「つるべ落とし」の感覚はちょっと掴めないが。

それでも、風に揺れるススキの穂を見ながら、私は日本と同じような、でもひと味違う「英国の秋」を、しみじみとかみしめていた。

さてそれから、何週間かすぎて(その間に、実は一時帰国をしました)、冬時間に移行した今、秋の訪れの遅かった今年の日本にも、そして、これもまた、暖房が入り始めてから再び、9月末に30℃というインディアンサマーを体験した英国も、正真正銘、秋を迎えている。

木々の紅葉が着実に季節の移ろいを見せている。

「味覚の秋」

という言葉が英国にあるかどうか、よく知らない。意地悪なフランス人なら、「英国にそもそも味覚はあるのか」と言うかもしれない。たしかに、何年か前までは、「英国料理はまずい」というのが定説だった。

林望氏の『イギリスはおいしい』というエッセーは、まさに、いかに「味がないか」を膨大なページをさいて、愛情深く(!)説明しているが、おそらく、英国に住んだ人は大きく頷く内容だと思う。

だから、英国人と秋の食べ物を話題にして盛り上がることは期待していないのだが、英国にもまた、それなりに季節を意識した食べ物があることを、先日実感した。

〈ランドゲイト〉:街への城門。エドワード3世が建設(1329)

イングランド南部の海のそばに、ライ(Rye)という小さな村がある。いや、一応電車の駅――ロンドンから特急と在来線とで1時間15分くらいの所――があるから、「町」なのかもしれないが、人口は4000人ほどの、おそらく全員が顔見知り、というような規模の集落である。 かつて、フランスからの攻撃を免れるためにと建設された(1249)城塞イプラ・タワーが南のはずれの高台に今も残り、英仏海峡の交易の拠点として栄えた港町として、チューダーやジョージアン様式の建物が数多く残る、とても美しい村だ。

中世には、まぎれもなく「街」であったここは、何百年もの間に地形も少しずつ変わり、今は海から2マイルも離れてしまったけれど、その名残をここかしこに見つけることができる。

丸い小石の路

昔ながらの丸い石ころを埋め込んだ路は、ペッタンコの靴にも決して快適とは言えないが、白壁に黒い梁を見せる、ハーフティンバーの家並みと相まって、歩く者を古へといざなう。

集落のほぼ中央に位置するセントメアリー教会は、イングランドで一番古いという大時計を正面に据え、墓石の連なる裏庭を囲む小路は、まるで時が止まってしまったかのよう。

教会の時計

教会裏手のハーフティンバー

10月の半ば、友人に誘われて、私は、秋の遠足とばかりライへ出かけた。

晩秋の低い太陽を浴びてキラキラと赤く輝く蔦のからまる《マーメイド・イン》も、古い路地にひっそりと佇んでいた。

15世紀から続く旅籠。

“町で一番有名なレストラン”ということで昼食のテーブルを予約していたのだが、そのメニューに秋ならではの料理を発見して楽しくなった。

【野生猪のロイン肉のロール巻、じゃがいも添え】

欧州は、今、ジビエの季節です。

村をあげて、「野生猪週間」のようです。

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