Did you know that?

43. 書店の行方

池上彰氏のベストセラー本に、「発展する国かどうかは、書店を見ればわかる。街に大きな書店があり、そこに若者が大勢いれば、将来発展する見込みがあるが、賑わっていない国は将来の見込みがない」というようなことが書いてあった。

アメリカは、この点でみれば、以前から将来性のない国だったかもしれない。

昨年秋、我が家の近くにあった大手チェーンの書店 “Borders”が、とうとう潰れてしまった。車で7、8分のところにあって、そこでそれ程本を買っていたわけではないが、子供たちが小さい頃には、よく通っていた。児童書のコーナーがあって、子供向けテーブルと椅子があり、親子で本を選ぶ、売ってある本を読むこともできるとても素敵な書店だったからだ。クリスマスや誕生日のプレゼントに、ここでよく本を買っていた。

店の一角にはコーヒーショップがあり、飲んだり食べたりしながらゆっくりできるテーブル、椅子やソファーがある。その側の棚には週刊誌や雑誌があり、コーヒーを飲みながら、新着の雑誌を手に取って読む、あるいはコンピューターで仕事や宿題をする、友人と雑談するなど、誰にも邪魔されることなくひと時を楽しめる。また、雑貨も売ってあったので、それなりの特色を持った書店だと思っていた。しかし、コーヒーショップで読める雑誌や週刊誌をわざわざそこで買って帰るか!といつも思っていた。余程自責の念がない限り、ちょっと読んで棚に戻して買わずに帰るのが普通だろう。

ある書店内にあるコーヒーショップ

“Borders”は、1971年、当時ミシガン州立大学の大学院生と大学生であったBorders兄弟によって設立された。その後2011年、倒産に追い込まれるまでに全米508店舗、プエルトルコ、海外にまで進出する大手チェーン書店であった。

アメリカの書店は、“Borders”と“Burns & Noble”の2大書店によって全米が網羅されていた。昔は小さい本屋さんがあったかもしれないが、私がこの地域に居住し始めた1980年代半ばには、そのような本屋さんはほとんど見かけることはなかった。アメリカは50州だから、“Borders”だけでも単に計算して各州に10店舗ぐらいがあったのだろう。 中規模の街や郊外に店舗が作られていったと思うが、人口の多い州には数多く点在していたことだろう。もちろんニューヨークやサンフランシスコなど、街中に居住地区があり、一日中人々の往来がたくさんあるような所には、その他にも特色ある書店が見受けられる。ニューヨーク•マンハッタン、サンフランシスコの市中など全米に7店舗を有する紀伊国屋書店もその一つかもしれない。ポートランドには、”Uwajimaya”という日本、アジア食料品店に隣接して紀伊国屋書店がある。

しかし、大手チェーン書店の店舗面積は、平屋でだいたい2000から3000平方メートルあり、本ばかりでなくDVDや雑貨も売っている。繁華街の賃貸料の高い地域では、このような巨大店舗を出せるわけがない。当然郊外のショッピングモールの一角での商売となる。

さて、郊外のショッピングモールと言ってもその数は半端ではない。モールの大きさにもよるが、住宅がある所には、食品を中心としたモールが必ずあり、食品は住んでいる地域に一番近い所に買いにいく。たいていそのようなモールには書店はない。大きなモール、例えば全米チェーンのデパートMacy’s、NordstromやSearsがあるようなモールは別の場所にあり、目的に応じて違うモールに出かけることになる。このようなデパート系モールには、隣接して大型書店があることはほとんどない。以前モール内に小規模の書店が開店したことがあったが、すぐに潰れ撤退してしまった。アメリカのモール作りにはどうも何かのルールかパターンがあるようだ。我が家の近所の“Borders”は、中堅規模のモールにあり”Office Depot”という事務用品、文具のフランチャイズ大型店の隣にあった。

潰れてしまった我が家の近くにある“Borders”。右手には”Office Depot”がある。

 

このように 、デパートのあるモールで買い物した後ちょっと書店に立ち寄るということはあまりない 。結局「必要な本があるから書店に行く」という具合になる。それも車で5〜10分かけて……。

アメリカでは、16歳ぐらいで運転できる州が多い。つまり郊外に住んでいる殆どの子供たちは、高校1年生ぐらいまでは、自分で書店へ行くということはできないのである。車を運転する子供たちだって、別に書店に行く為に運転する訳ではない。学校へ行く、クラブ活動をする、友だちと遊びにいくなど、日本のように駅近くにある書店にちょっと立ち寄るというような感覚はこちらに子供たちは持ち合わせていないようだ。

では、アメリカではどうやって本を買うのであろうか。

アメリカでも書店では多くの幼児連れの親子を見かける。書店も読み聞かせの会などを企画し、親子連れを呼び込もうと必死である。我が家も子供たちが小学校に入る前にはよく書店にいっていたが、近所にある図書館も頻繁に利用した。当時まだカセットテープだった時代、本にカセットテープがついているのを良く借りた。私のジャパニーズアクセント英語で子供に本を読みたくなかったので、英語本は夫とこのカセットテープにお任せした。私はもっぱら、日本から持ち帰った日本語の本のみを読み聞かせした。

小学校では、“Scholastic Book Club”という会社が、毎月教室で、本の注文をとってくれるシステムがある。アメリカには、近くに書店が全くないような地域もたくさんある。この学校での書籍販売は、田舎の子供たちにも好きな本を買って読むという喜びをあたえる為、学校内販売が許可されている。本は難易度が示され、幼稚園と1年生向け、2年生と3年生、そして4年生から5、6年生向けというように区別してある。もちろんどの本を買うかは親と子どもで決める。1年生でも3、4年生位の本を読む子もたくさんいる。

“Scholastic Book Club”で何十冊も買った”The Magic School Bus”シリーズ。子供たちはマジック・スクールバスで行くいろいろな世界に魅了された。

本は厳選され、内容も豊かで低価格の本も多くあるので、我が家では毎月20ドルから30ドル分ぐらいを注文していた。又年間2、3回、学校でPTC(Parents & Teachers Club)の保護者たちの協力で、「ブックフェアー」が開催される。朝始業前、昼休み放課後などに、子供たちが自由に自分たちで選んで買うことができるブースを2、3日間設置する。また学校図書館も充実しており、高学年になった子供たちは、学校のリサーチやプロジェクトに図書館を利用することも多かった。学校の教科に、「Library—図書」というのがあって驚いた。「selection & Location of Materials, Use of Technology, Completion of Assignments」によって評価されていたが、我が家の子供たちはどうもこれが苦手で、良い成績をもらったことがなかった。

中学校、高校時代には、 学校で強制的に読まされる本が数多くあり、その本を書店で買ったり図書館で借りたりしていた。また自分たちの読書の好みもはっきりしてくるので、我が家では自分で車を運転し始めるまでは夫か私が書店に連れて行き、半年分位をまとめ買いしていた。

アメリカの空港や駅は日本の「キオスク」のように、雑誌が雑貨、食品、土産と一緒に売ってある。スーパーには本のコーナーがある所が多く、ペーパーバック本、雑誌がおいてあり、レジの側には、”Newsweek” “Time” “クッキング”等の週刊誌、それに芸能情報満載のタブロイド紙がおいてある。

スーパーにおいてある雑誌やぺーパーバック本

”Buy 2, Get 1 Free“-2冊買えば、1冊は無料という販売方法は、食品等でよくつかわれている。

レジの側には週刊誌やタブロイド紙が所狭しとおいてある。レジを通る人はつい買ってしまうようである。

“Borders”が廃業に陥った現在、“Barns & Noble”が書店としては主流になった。“Barns & Noble”は、1917年創業のアメリカ最大手の書店である。全米に723店舗を有し、639の大学内書店がある。ポートランド市と近郊には6店舗がある。

只、ポートランドには、1971年創業、売り場面積全米2位という大きな書店 “Powell’s Books” がダウンタウンにある。床面積6300平方メートル、近郊に5店舗を有し、新書、古本、絶版書、また珍しい本など、400万冊の在庫をもつ。またこの書店の最大の特徴は、本の買い取りである。1日の買い取り書籍数は約3000冊。我が家も先日児童書、文庫本など150冊程売りにいった。段ボール4箱。店には古本(Used books)買い取りコーナーがあり、常時2、3人の買い取り判断専門の人がいる。外国書も買い取る。我が家の150冊は日本語書が3分の2位あったが、120ドルで買い取ってくれた。もし “Store Credit” つまり、店での書籍券にすれば200ドル程になると言われたが、私たちは現金に換えた。日本でも買い取り書籍では“Book Off”などがあるようだが、本の価格は“Powell’s Books”の方が遥かに高いと思う。

“Powell’s Books”書店

-

古本買い取りは、この店の看板商法かもしれない。

“Powell’s Books”があるポートランドは幸いである。

東海岸に住む夫の家族、親戚、友人たちは、我が家に滞在する時、必ず半日から1日をこの書店で過ごし、たくさんの本を買って帰る。コーヒーショップに買いたい本を持ち込んで選び、送付してもらうこともできる。インターネット販売は、1994年、アマゾン(Amazon)とほぼ同時期に始まった。古本、古書、又出版されて売り上げの上がらなかった本(remaindered books)などを低価格で売る等の特色ある販売網は、現在の経営を大いに助けている。

アメリカの書店が今後どのように変遷していくのかはわからない。インターネットや“Kindle”[注]に押され、書店の存在自体が危ぶまれていくことも考えられる。

しかし、やはり書店をうろうろしながらどんな本が今読まれているのか、本の装丁を見て楽しむ、また思っても見なかった面白い本を見つけ我が家に帰っていく喜びは、インターネットなどでは決して味わえないものだと思う。

このサイトは翻訳学校サン・フレア アカデミーの運営です。

PAGETOP