ケアンズ通信

26. オーストラリア住宅事情 ~ケアンズで家をリノベーションする(後半)

自分達が住んでいる家を自分達の手でリノベーションをする場合、リノベーションの途中で疲れてしまい「暮らせないわけではないし、まぁ、しばらくはこのままでいいか」と、リノベーション未完成の状態で暮らし続けるというのはよくある話。ついつい楽な道を選びたくなるのは、日本人もオージーも同じだろう。周りにそういった人達やリノベーション途中で放置された家を見てきたDは「家を購入した直後のモチベーションが高いうちじゃないと、リノベーションなんて出来ない。出来るだけ早くやってしまおう」と決意していた。Dが新しい仕事に就いた直後に家を買ったため、仕事に慣れるために多くの時間をオフィスで過ごしていた彼にとってリノベーションのための時間を捻出するのは簡単ではなかったが、会社に行く前、退社後、土日の仕事が無い時間、空いてる時間は全てリノベーションに費やした。

 テレビ番組で見るのとは違い、実際に自分達でやるリノベーションは、過酷で時間がかかる作業だった。例えば床をフローリングに替えるという作業だけをとってみても、古いカーペットとそれを床に止めてあった釘を一本づつ外し、床を研磨し、床のサイズを測って床板等の材料を購入して車で運びこみ、床の上に板を張り、最期に竹の床板を一本づつ貼っていくという気の遠くなるような作業だった。家を購入してからの1年間は、Dも私も週末に遠出をしたことも、終日ノンビリ過ごしたことも無かった。クリスマスも大晦日も、お正月もイースターもリノベーションに明け暮れた。その頃は週明けに会社の同僚から”How’s your weekend?”と聞かれるのが鬱陶しかった。「リノベーションに決まってるでしょ?何でわかってること聞くの?」心の中で毒付いていた。

 築63年の家はいたる所にひずみやズレが有り、作業を始めるといくつもの予想外の問題に遭遇した。その度に計画を修正しなければならず、経費や時間は予想をどんどん上回っていき、それに伴いストレスも増していった。ちょうど同じ頃にメルボルンに住む日本人の女友達二人がそれぞれ家を購入してリノベーションを始めたのだが、彼女達のパートナーはDとは違って、彼女達にリノベーションを手伝うことを強要していないようだった。Dと比較すると私が出来る作業なんて限られてはいたが、それでもやることは山ほど有った。「どうして私はフルタイムで働いて、家事もして、リノベーションまでやらないといけないの?」疲労が溜まりお金がどんどん出ていく中で、何度もDと喧嘩した。私がDと同じくらい大工仕事が出来ればもっと早く作業が進むのに、と自分に対する苛立ちも有った。「こんなこと私がやりたかったことじゃない。あなたの夢に、どうして私までふり廻されないといけないのよ!!」隣近所に鳴り響く大声を上げたことも一度や二度じゃない。それでも夜中まで黙々と作業を続けるDを目にすると、手伝わないわけにはいかなかった。泣きながら壁のペンキ塗りをした事もあった。生活の中心がリノベーションで、お給料の殆どは住宅ローンとリノベーション費用に消えていった。一旦始めてしまったリノベーションは完了させるしかなかった。リノベーション途中の家を売ることの難しさはDも私も職業柄よくわかっていたし、リノベーション途中の家に住み続けるという選択肢も持たなかった。詳細な地図も持たずに小さなボートで船出してしまったDと私は、はるか彼方に楽園が有る事を、そしてそこにたどり着けることを信じて、ひたすらボートを漕ぎ続けるしかなかった。航路をめぐってDと私の意見がわかれ、小さなボートは途中で何度も沈みそうになったが、それでも私達は何とかボートを漕ぎ続けた。

 家を購入してからもうすぐ4年。二階のリノベーションはほぼ完成し、空洞だった一階にもゲスト用の寝室、リビング、バスルームを新設した。外壁を修復して色を塗り替え、表と裏の階段を新しくし、フェンスも取り替えた。家を買った時には椰子の木が二本寂しげに立っていただけの裏庭にも木や花を沢山植えて、今ではミニ植物園のような風采になってきた。幽霊屋敷のようだった私達の家は、今ではモダンで住み心地の良い家に変わった(と自分達は思っている)。不動産営業の仕事をしていて、中古住宅を探しているお客さんによく話すのだが、「相当の金額を出さない限り、中古でパーフェクトの家を見つけるというのは難しい。でも、買った家を自分にとってパーフェクトに近い家に変えることは出来ると思います」これは営業トークでも何でもない、私の実体験からの正直な感想だ。

 私達のリノベーションは未だ終わったわけではない。二階の一部は完全には終わってはいないし、一階にキッチンとダイニング、アトリエも作りたい、それに将来はプールも。Dの夢は未だ未だ続く。きっと私はこれからも「もうリノベーションなんて辞めてやる!」とDに食ってかかりながら、それでもBunningsへと通い続けることだろう。でも本当のことを言うと、何かを創りあげていく喜びを教えてくれたDに、心の中では感謝している。リノベーションを経験して、今までその存在すらも知らなかった、別の世界を見れた気がする。週明けに、自分のふくらはぎにペンキがついているのに気が付いたりすると、慌ててペンキを落としながら、「私ったらリノベーターなんだから」と一人で悦に入ってたりしている今日この頃である。

※ 写真をクリックするとリノベーション前と後とが切替わります。




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