ボストン通信ブログ

ミツバチがやってくる

地元のハチミツが花粉症に効くと聞いて探していたところ、地元紙ですぐ近所に88歳の養蜂家がいることを知った。主要高速道路から州道にはいってすぐの、かなり交通の激しいところにその農場はあった。正面から見ると普通の古い家なのだけれど、家の隣に車を止めると、その奥にリンゴ農園が見える。お店ふうの建物がないので、家の裏口をノックして「ハロー」と声をかけた。小さくて細身のおばあさんが手をふきながら出てきて、「まったくこの年になって薪ストーブの掃除は厳しいわ」と笑った。ハチミツをいただきたいんですけどと言ったら、「さあ入って、入って」ということになり、それからしばらくはどこから来たのかとか、あなたの名前はどんな意味なのかとか、自分の家族はイタリア系でおばあちゃんの名前は Primaveraといってあなたと同じ春って意味よとかおしゃべりを楽しんだ。ハワードさんの天然ハチミツはパスタソースのビン、ジャムのビンと一目でわかるビンに詰められて、台所のわきの廊下に置いた細長いテーブルの上に所狭しと並べられていた。「どれでも好きなのを選んでね」と言われて、ついつい一番大きなパスタのビンを手にする。それが11ドル。

ハワードさん(左)

「うちの主人はずっと前からハチを飼ってみたいと言ってるんですけど、弟子入りさせてもらえないかしら」と聞いてみたら、「あぁ、ハワードは毎年、近くの農業高校で夜、養蜂のクラスを教えてるのよ」と教えてくれた。そこで主人とふたりして養蜂のクラスに通うことになった。2月の初旬から4月にかけて、10クラス。教えてくれるのはこのあたりの養蜂協会の人たちで、ボランティアで、一人でも4人でも授業料は協会の会費も含めて50ドル。みんな Backyard Beekeeper と呼ばれる、趣味で養蜂をする人たちである。10数年前には10数人だけのクラスだったのが、ここ数年は100人を超えているという。ミツバチがなぞの失踪を遂げるという現象が世界中で起こっている中、この人たちは少しでも養蜂家を増やして、ミツバチ減少に対抗したいと真剣になっているのだ。

ミツバチの生態はとてもおもしろくて、毎週クラスに行くのが楽しみだった。女王蜂はたいてい人生で一度受精するだけで生涯卵を産み続ける、春から夏の最盛期には毎日2000個の卵を産む、ミツバチの一家はすべてこの女王の子供たちで形成されているといった生物学的な内容から、ミツバチはもともと教会用のろうそくを作るために牧師さんがヨーロッパから持ってきたのだとか、もともとは温かい地域に住む虫なので、ニューイングランドで飼うのは厳しいとかいった内容を学ぶ。オスのハチは女王蜂の受精に貢献する以外は何もしない。巣箱のお掃除も卵の世話もミツや花粉を採りに行くのもすべてメスのハチである。それは大変な激務で、冬の間は4-5か月生きるミツバチが夏の最盛期には4-6週間で過労死するのだという。冬が近づくと、女王をはじめとする家族の生き残りのため、オスのハチはすべて巣箱から追い出されてしまう。そんな内容を農業高校のカフェテリアで学ぶ。

養蜂はなかなか高くつく。巣箱や衣服だけでも500ドル。おまけにこのあたりでは、花の蜜が採れるのは5月中旬から7月にかけての10週間のみで、あとは砂糖水をあたえる。この量が半端ではなくて、ここでもかなり散財になる。これが明らかになったころから、100人以上いた生徒の数が大幅に減ってしまった。その額には驚いてしまったけれど、とりあえず巣箱を2つとミツバチ2箱を注文した。風雨にさらされる部分に下塗り材を塗って、ハチが巣を作るためのスクリーン80個を組み立てた。ハチは来週末に届く予定で、張り切りまくっている主人のおかげで準備はすでにばっちり。ハチは木箱に入れられて、ジョージア州からトラックで運ばれてくる。

ハチ防護服

地元の養蜂協会はすべてボランティアで運営されていて、ほとんどの会員がBackyard Beekeeperなのだけれど、やる気まんまんで、10週間のクラスを終了すると、近所に住む先輩を紹介してくれる。この先輩たち、後輩を教えるためにちゃんとクラスをとる必要があるというのに、2-3人の新人にひとりという割り振りができるほどの数がいるらしい。わたしたちの「先輩」は教授陣の一人。裏の森を突っ切ると15分くらいで行ける距離に住んでいる。心強い限りである。

ハチを巣箱に入れるところが見たいという友達にも連絡をとった。日本と反対に暖冬のあと、異常に温かい春を迎えたボストンでは、通常5月に咲く桜がもう散り始めている。サツキも今がさかり。「うちのハチの食べ物がなくなる」といって夫は焦っている。デッキの仕上げ、野菜畑の植え付け、ハチのための野の花の種まき、養蜂と、今年の春夏は短くも大忙しである。

巣箱

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