Did you know that?

45. パリを訪れてみれば−①

6月、初めてパリに行った。夫は20数年ぶりであった。

パリにあるイヴ・サン・ローランギャラリーでは、今年3月7日から7月15日まで、「歌舞伎衣裳展(Kabuki Costumes du théâtre japonais)」が開催された。夫は、昨年からこの展示会のカタログ編纂のために歌舞伎の歴史紹介文を書くことを依頼されていた。このカタログは、190ページにも及び、カラーで載った衣裳の美しさや浮世絵も素晴らしかった。それぞれの専門家によって書かれた紹介文はフランス語と英語で書かれている。

送られてきた美しいカタログ。

歌舞伎衣裳の美しさが際立つカタログだった。

このカタログがパリから送られてきた時、夫は是非この展示会を見に行きたいと言った。原稿料は支払われたが、もちろんパリ往復の航空券など送ってくるはずはない。自前だ。夫が行くことに決めたとき、私もついでについて行くことに決めた!ベルギーに住む妹の娘の中学校卒業式が、丁度同じ時期にあるので、ベルギーにも寄ってくることにした。

外国人と結婚し、海外に住んでいる多くの日本人が同じような立場だと思うが、「里帰り」は、半端でなく大変である。私の両親が熊本に住み、夫の両親が離婚再婚しボストンとワシントンDCに住んでいる我が家の旅行先は、「お互いの実家へ帰る」が最優先になってくる。子供たちを祖父母に会わせるのにも莫大な費用がかかった。
 子供たちが高校を卒業するまでは、経済的にも時間的にも余裕がなく(大学に2人行かせている今はもっと余裕がないが)、長い間ヨーロッパはポートランドから遠かった……。

〈税関は何処?〉

さて、ポートランドからは、数年前からアムステルダムまでデルタ航空の直行便が出ている。10時間の飛行は、日本への所要時間と変わらない。
 アムステルダムでの乗り換えは、税関のお兄ちゃんが、無表情のままというより、ムスッとして一言も喋らずパスポートをめくってスタンプをバンと押した。これがユーロ圏入国?
 「えっ?何も聞かないの?このまま通り過ぎていいの?乗り換えだからかな〜」
そのままエールフランス航空に乗り換えてパリへ。

空港に着いた。Baggage Claim(手荷物引き渡し所)で荷物をとり、税関を捜すがない。
 「えっ?税関は何処?荷物はこのまま持ち帰っていいの?誰も何を持って来たか調べないの?アメリカ入国で必要な米国入国調査書みたいなのもなかったわよ」

私はアメリカに入国し税関を通る時、20数年たった今でも毎回ドキドキする。別に悪いことをしている訳ではないが、しつこい取り調べをうけているようでいい気持ちがしないのである。パスポートや永住権カードをコンピュータに照らし合わせ、犯罪歴がないかどうか調べられ、両手の指紋をとられる上に、どんな目的で日本に行ったか、どのような食べ物を持って来たか等詳しく聞かれる。その上、滞在先で買い持ち込むものと金額を詳しく明記したカードを見ながら口答でも質問される。私は、以前申請書に買って来たものを大雑把にしか書いていなかった時、全ての荷物を調べられたことがあるので、それ以来詳細を記すようにしている。

ヨーロッパに入るのって、こんなに簡単なの?ユーロになって、お互いの国に任せているのか?でも、私は、アムステルダムでも何にも聞かれなかったよ。こんなに簡単にフランスに入国できていいの?荷物の検査もしないのなら、何でも持ち込めるってこと?

Baggage Claimにも、誰も働いている人はいなかった。

私たちは、そのまま空港ビルの外に出た。そこはタクシー乗り場だった。チップを渡す小銭がないので、店か自動販売機みたいなものがないかと捜すが、何もない。いろいろ聞きたいが、空港関係者のような人は誰もいない……。どうして空港のこの場所には何もないし誰も働いていないの?シャルル・ド・ゴール国際空港だよね、ここ?

〈送迎バスはなぜ来ない?〉

戸惑い拍子抜けした夫と私は、ホテルの送迎バスが来るよう前もって申し込んでいた会社に電話して、どうするかを聞き、指定された乗り場で待った。待った……。
 20分たっても来ない。もう一度電話する。「後10分で必ず来ます」
待った……。30分経過。40分経過。もう一度電話する。来ない……。又電話した。「来る」と言った。いつまで待たせるのか!腹が立って、「もうタクシーで行くわよ!!」と怒鳴りそうになる。結局、1時間待った。やっと来た。運転手の男からは「すみません」の一言もない。
私は怒りで爆発しそうだった。

迎えのミニバンに乗ると8人程の乗客がいた。チリ人のカップル、オーストラリアからの夫婦、他はアメリカ人。私の横に座っていたのは、私の3倍もあろうかという程太ったアーカンソーから来た奥さんだった。ご主人が外科医で、学会等で毎年フランスに来ているそうだ。その太っちょおばさんの一言。
「あ〜ら、私たちも1時間待ったのよ〜。もう来ないかと思ったけど、来てよかったわ〜。やっぱりパリに来るのって楽しいわ〜」
「えっ?あんなに長く待ったのに怒ってないの?」
 彼女の陽気なおしゃべりに、私の怒りは吹っ飛んでしまった。
「ほら。エッフェル塔よ!最高!何度来ても何度見ても素晴らしいわ〜〜」
 その喜び様に、人生の楽しみ方をこのおばちゃんから習ったような気がした。

〈ホテルの狭さ〉

ホテルは、夫の大学のフランス語教授から勧められた所に予約した。
商店街のようなところにあるホテルに着いた。インターネットでも調べ、「まあ、大丈夫でしょう」と行ってみれば、ロビーの狭いこと。もっと狭かったのはエレベーターである。幅70センチ、奥行き1メートル。信じられない狭さ。夫と私と大きめのスーツケースが全部一緒に入るはずもない。スーツケースだけ乗せてもドアは内側から始動だ。動かない。結局、まず細身の私とスーツケース大1個が6階へ。

狭いエレベーター。大きさは日本の公衆電話ボックスぐらい?

部屋に入ってびっくり。せ、狭〜〜い!スーツケースをおけば、ベッドの上以外動く場所がほとんどない。外を見れば3メートル先は向いの窓と壁。
「ちょっとちょっと!!本当にジーナが推薦したの、このホテル?そんなに安いホテルではないわよ?最悪じゃないの。狭くて圧迫感があって、ここに1週間もいたら気分が狂いそう……」と怒る私に(パリに着いて早々、怒ってばかり!)、
「でも、ほとんど観光から帰って寝るばかりだから……。でも、他の広い部屋が空いていないかどうか、一応聞いてみるよ」と、夫もこの部屋に長くいるのが苦痛のようだった。
フロントで聞くと、3ベッドの部屋が翌日から空くというので、そちらに替えてもらうことにして一件落着。25ドル余分に払うだけで気分よく過ごせるなら、その価値があると思った。

第二次世界大戦で戦火を免れたパリの街は、数百年前の建物のままのホテルも多いそうである。普通?の大きさのエレベーター等ロビーに入れる余地はなく、このような狭いエレベーターがついているホテルは、結構多いと聞いた。それにしても、太ったアメリカ人は、このエレベーターの広さでは、ドアから中に入れないかもしれないと思ってしまった。こんなとき、アメリカ人は訴訟を起こすだろうか、「私が入れる大きさにつくるべきだ。体格差別だ!」と。

〈ホテルのよさ〉

そんなホテルだったが、一歩外に出ると「パリ」だった。エッフェル塔には歩いて行けるし、商店街には3軒のパン屋、2件のスーパー、チーズ専門店、2軒の魚屋、3軒の花屋、書店、夜中まで営業しているたくさんのレストラン等がひしめき合って、人々が初夏の日々を楽しんでいる様子が十分伺えた。夫と私はこの通りを歩き回るのが大好きになった。ジーナがこのホテルを勧めてくれた訳がわかったような気がした。

ホテルのある通りのレストラン

チーズ専門店

花屋

〈チップは払うの?〉

アメリカに長く住んでいると、ファーストフード店以外の飲食店では、必ずチップを払う。美容院、タクシー、ホテルの荷物運びやベッドメーキング、ピザの配達、家のもろもろの修理に来た人等、およそ人のサービスが関わっているものに対しては、何らかのチップを払う。

私たちは、送迎マイクロバスのお兄ちゃんにも、あんなに遅れて来たのにチップを払った。それも小銭のユーロがなかったので、ドルで5ドルも!インターネットで調べれば良かったのに、夫がホテルのフロントで働く男性にチップのことを聞いた。
「サービスが好きだったら払えばいいよ。15パーセントぐらい」
夫と私は、まともに信じて、払い続けた。しかし、回りのテーブルを見てもチップを払っているようには見えない。

パリの友人にチップのことを聞いた。
 「フランスでは、チップはほとんど払わなくていいよ。食事の値段が高いのは、チップや税金の入った値段だからさ。でも、もしサービスが良かったら、少しでもチップをおいておくと喜ばれるよ」
 そうね。どこへ行っても喜ばれたわ。道理でどのレストランもお金を支払った後、愛想のいいこと。それにしてもチップまで払ったので食事代の高かったこと!

〈水のありがたさ〉

自然豊かなポートランドの水は最高においしいと言われている。水道水をそのまま飲み、料理に使う家庭も多い。ダウンタウンには、飲料用の小さな噴水があちこちに設置され、道行く人は喉が渇くと口を近づけて水を飲んで行く。

ベルギーの妹から、「水道水は飲まないように!ホテルにはスーパーで買った1リットル入りのペットボトルを常備しておく方がいい」と忠告されていた。
 レストランでは、水が出されないため、必ず水を注文した。180mlのびんで2.5〜3ユーロ(1ユーロは1ドル31セント)。これだけで、ドル安の今、4〜5ドルである。大きめのビンだと4〜5ユーロ。それに食事を注文し、デザートだ、エスプレッソだと加えると、何でもないサンドイッチのような昼食代でも2人分で5、60ドルになった。夕食も食べないわけにはいかない……。

アメリカや日本のレストランで水やお茶が無料で出されることは、何とすごいことなのか。又、何よりも普段何気なく飲んでいる水が、安全で、しかもおいしいことのありがたさを改めて思った。

つづく

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