Did you know that?

52.ポイ捨てタバコと街の美化

6年ぶりに東京に住んでまず感じたことは、東京の街が随分「きれい」になったことだ。毎年何度か帰国するが、一時帰国者としての私には、街の変化には特別な意識もなかったし気づくこともなかった。ただ、「きれい」というのは、景観が美しいということではなく、清潔感としての意味だ。

私が日本で住む地域は、新宿区の高田馬場から早稲田地方で、日本でも人口が最も密集しており外国人居住者も多い地域である。早稲田大学と高田馬場を繋ぐ早稲田通りは、学生だけでも5、6万が日夜行き来する地域。また高田馬場駅は、1日の乗降者数が世界で10番目に多い駅だそうだ。人の行き来が多い程街が汚くなっていくのは仕方がない。

2006年に早稲田に住んだ時、高田馬場までの歩道には、空き缶、ペットボトル、タバコの吸い殻、ポイ捨てゴミ、ゴミ出し日にはゴミ袋が破れ、中から出た様々な生活ゴミが道に散らばっていることも多かった。大きなカラスが何羽となくそのゴミ袋を突ついている光景は、この地域を一層汚く見せていた。
 その上駅近くになると、泥酔した学生たちが路上に横たわっている、また酔っぱらって座り込む友人を介護する学生たちを見るのは、日常茶飯の光景だった。そして、その歩道には、道行く人が気分悪くなるような吐瀉物があちこちに見受けられた。

「仕方ないわよね。大都会だし、大学生が日に何万人と通るのだから。それに早稲田通り沿いには、日本一と言われる程ラーメン屋がひしめき、飲食店が深夜まで営業しているんだから」
と諦めながらも行政の怠慢を腹立たしく思っていた。

ところが、昨年早稲田に住み始めて驚いた!この早稲田通りが「きれい」になっていたのだ。

早稲田通りの汚さは、多くの住民を癖々させ、自分たちの住む街の醜さを憂慮されていたに違いない。「どうにかできないものだろうか……」
 聞くところによると、早稲田商店街と早稲田大学の学生が協力し、大学周辺から早稲田通りのゴミを一掃し、その状況を維持し続ける「早稲田のまちづくり・環境美化活動」という企画と運動の成果であるらしかった。

早稲田大学近くの通り。奥には大隈講堂の時計塔が見える

まず気づいたことであるが、都内ではタバコの吸い殻が路上にみあたらなくなった。 これは2002年東京都千代田区が、「路上喫煙禁止条例」という安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例を制定し、当該行為の取締を実施したのが始まりだった。その後都内の他の区や市の自治体が類似の条例を制定し、路上喫煙禁止または努力義務を制定する動きが広まっていった。

この条例の効果は東京都心、また繁華街の多くの場所で表れているようだ。東京駅周辺千代田区の路上の美しさは格別である。毎日雑巾がけでもしているのではないかと思うぐらい、整然と並ぶビルに沿ったどの道路も美しい。銀座周辺もきれいだ。町並みが雑然とし、人の行き来が断然多く、若者が集う渋谷や新宿であっても、以前に比べゴミが少なくなっているのは歴然としている。

東京駅近くの道路−正面に東京駅が見える 千代田区の歩道

銀座の歩道

路上喫煙禁止条例の効果だと思った。つまり、タバコをポイ捨てする習慣のある人は、他のゴミを捨てるのも平気かもしれない。また、ゴミであふれた路上であれば、煙草を吸わない他の人にとっても、ゴミを捨てるのが気にならなくなる。このようにして街の路上が汚くなっていくのではないだろうか。

私は、昨年6月パリとベルギーを訪れた*-1(参照:45.46.パリを訪れてみれば)。両都市とも建物の重厚さと美しさは私が改めて言うまでもない。年間観光客数が世界一のパリで、街を「きれい」に保つことは並大抵のことではないだろう。フランスでは、禁煙令(保健省令)が施行され、フランス全土において公共施設、公共交通機関、屋内施設での喫煙は禁止され、違反者には罰金刑が科せられるようだ。ヨーロッパでは、喫煙率も高いが女性の喫煙者も多いらしい。パリでは、建物や人ばかり見ていたのだろう、路上のゴミなどに気にかける余裕もなかった。しかし、 ベルギーに行って驚いたことの一つは喫煙者の多さであった。特に外に座るカフェでは喫煙者を良く見かけた。屋外のカフェには灰皿があり、忙しいのか次の客が座るのに灰皿を片付けないところもあった。また人の多く集まるところでは、遠くからは見えないのだが、近寄ると石畳の間に埋まっているポイ捨てタバコの多さに驚いた。側溝をのぞいて見ると吸い殻ばかりでなくゴミもある。人が多く集まる街を美しく保つことの大変さを改めて思った。

ベルギー・ブリュッセルでのレストラン 

石畳につまったポイ捨てタバコ 側溝にはタバコの吸い殻やペットボトル 、レシートまで捨ててあった

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私の住むオレゴン州ポートランドの街づくりは全米でもモデル都市として、また住み心地のよい都市としても定評がある。禁煙、嫌煙運動はアメリカが発端だと思うが、現在オレゴンでは、禁煙に関する下記のような法律が制定されている。

Oregon's workplaces, restaurants and bars are smokefree.
Oregon has a strong statewide law in place providing 100% smokefree indoor air in workplaces, restaurants and bars. The law also prohibits smoking within 10 feet of entrances, exits, windows that open, and ventilation intakes of workplaces or public places. When it took effect in January 2009, the law also restored local control and Oregon communities are once again allowed to enact local smokefree laws.

会社内、レストランやバー等の飲食店内での喫煙禁止。また、職場や公共施設の出入り口や窓等開閉される場所、換気口の約3メートル以内での喫煙は禁止。路上での禁煙は明記していないが、街中にはドアや窓があるため歩道ではタバコを吸えないということだろう。しかし、私がこのまちに住み始めた1980年代には、ダウンタウンには浮浪者があふれ、 路上もゴミが散らばり汚く、週末には人がほとんど寄り付かない閑古鳥が鳴くような状態だった。1990年代に入り都市計画の見直しがされ、街中の浮浪者が一掃され、驚く程美しくなった。

しかし、愛煙家にとっては、何とも住み心地が悪い世の中になってきていることだろう。東京では、路上や公共施設での喫煙禁止令が施行されてから、あちこちで喫煙所が設置され愛煙家を助けている。高田馬場駅でも近くの広場に設置され、いつもたくさんの人がタバコを吸っている。

高田馬場駅の喫煙所でタバコを吸う人たち。この場所がつくられた功績は大きいと思う。

最近私が路上喫煙者を見たのは2回である。男女二人連れの男性の方が、乃木坂の駅近くで歩きタバコをしていた。夕方だったので、手元のタバコの火が前後して目立った。歩きタバコがダメだってことを知っているだろうに、どうしてその女性は注意しないのだろうと思った。私の悪い性格で、このようなカップルを見ると、俄然腹立たしく思い、「こんな男とは早く別れろ!」と叫びたくなる。
 もう一回は、高田馬場駅の売店の側であった。若い男性がタバコを吸っていた。吸い終わるとポイとその場に捨てて、ちょっと靴で踏んでどこかに行ってしまった!! 「なんてことするの!駅のむこう側に喫煙所があるのだからそこに行って吸いなさ〜い!」と言いたかったが、もちろん言えるはずがない。すると間を置かず、浮浪者の男性が、若者が捨てたタバコの吸い殻をさっと拾って指先で吸い口をちょっと拭き、ポケットに入れた!「 路上喫煙禁止条例と街の美化」を理解し協力しているのかもしれない??

人がいて街。人が生活して街。人が多く集まるところが汚れるのは当然であり、折につけ、心ない人によって物が放置、破棄されるのは仕方がない。夜中の新宿や渋谷には捨てられたゴミが醜くたまっている場所もある。このような、汚い状況は非常に目につきやすいし、目を背けたくなる。

しかし、翌朝には、このようなところがきれいに清掃され快適な場所になっている。

人は不快さには敏感だが、清潔な環境は、あたかもそれが当然であるかのように思ってしまうものである。その清潔で快適な状況を保つために、住民や行政に関わる多くの人たちの働きや努力があることを忘れてはならないと思う。

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