セネガル通信

第2回 散歩は道連れ・・・

バナナがだいぶ肥ってきた。

「バナナの木」は日本ではそこかしこで見られるわけではないけれど、なんとなく形をご存じの方は多いと思う。あのバサバサとした独特の大きな葉は、私にとっては南国の象徴のようなもので、そしてたわわに実る黄色いバナナも絵とか写真などですでに見知っていて、とても身近な果物ではあるのだけれど・・・。 実際にどんなふうにバナナが出来上がるのかは全く知らなかった。

だから、ここに住み始めた頃、プールサイドに落ちていた紫色の肉厚の葉っぱ(実は花弁らしい)とか、腐ってしまったかのような、数センチの青黒い細い棒の集まりを見た時には、これが本当にバナナか?と疑い、かつ驚いた。

それから2カ月がたって、今では、とってもバナナらしく、直径6センチ、長さ15センチくらいの、ちょっとずんぐりむっくりした青バナナたちの塊になっている。でも、さわればまだまだ実は固い。あと1-2週間もすれば収穫できるかしら・・・。 

最近の朝の散歩の一番の関心事は、庭の奥と駐車場の隅に植えられたバナナである。

「どのくらい太ったのかい?」と、私はまるで、ヘンゼルとグレーテルを檻に閉じ込めた魔女みたいに、期待をこめてバナナに触れる。

よほど忙しくない限り、私は毎朝散歩をする。

散歩についてきてくれるのは、《ママン》だ。彼女は、私が、バナナの成長を見たり、シトロン・タイランデ(タイ原産のレモン)を拾ったり、食卓を飾る花を摘んだりするのにいつもつきあってくれる。

彼女とは、初対面の時からすぐに打ち解けて、1週間もたたないうちに、二人の散歩は恒例となった。たいていは私が先に歩き、彼女が後ろからゆっくりとついてくる。たまに、先回りして、きれいな花の存在を教えてくれることもある。

ママンと散歩の途中で見つけたザクロ

11月の“残暑厳しい”日、ママンは途中の木陰でたち止まり、バナナの木のところまであと20メートルというところで、座り込んでしまった。でも、何度か声をかけたら、「仕方ないわねぇ」という風に重い腰をあげた。

「どうしたの?」「何してるの?」と日本語で聞いた時は知らんぷりだったが、少し大きな声で「ビアン、ママン、ビアン!(来なさいよ!)」ときつく言ったら、のそのそと身体を動かして立ちあがったから、フランス語(セネガルの公用語)は通じているみたい。ここの現地語であるウォロフを使えば、もっとさっさと行動してくれるかもしれない。

手前がママン、奥がフィーユ

ママン――年齢、およそ5歳。ダカール市ファン地区、日本大使公邸の庭生まれ。美猫。

ママンには、少なくとも“ふたり”の娘がいる。

そのうちの、とてもよく似た見掛けの、ママンよりほんの少し身体の大きいのが《フィーユ》(フランス語で“娘”という意味)という名前で、まぁ、これは、昔から公邸で働いているセネガル人スタッフたちが便宜上つけた、名前ともいえない名前。もう“ひとり”の娘は、さらにママンにそっくりで、胸元の白い美人ちゃんではあるが、警戒心が強くてあまり姿を見せない。でも間違いなく母娘として存在はしている。公邸スタッフたちが避妊手術や狂犬病予防注射などをしてやり、水や食べ物を与えている“由緒正しき外猫”たちである。

いつだったか、敷地内に侵入してきた猫を、皆で力を合わせて、お隣の某大使公邸の塀の上まで追いやっていたところを見ると、彼女たちの意識としては、完全にここの住人かもしれない。

ダカール市内でよく見かけるのは、まず馬(荷車!)、そして羊(放牧…と言えるかどうか)。その次には猫である。それらはほとんどがのらちゃんのようではあるけれど、どうも人間との共生能力にたけているようで、ほとんど飼い猫のようなおもむきだ。

市内で一番大きな生鮮食品市場であるケルメル市場の中にも猫はたくさんいて、特に魚屋のコーナー付近では優雅にまどろむものたちもいる。そこではおこぼれを充分に頂戴できるのか、陳列棚に飛びあがって魚を盗む、というような、サザエさんの漫画のような光景に出くわすことは全くない。

食べ物屋さんに動物を入れるのは衛生上いかがなものか・・・というのは先進国の発想で、もちろん、さまざまな病気がはびこるのはよしとしないが、野良猫のいる風景は、なんとなく懐かしい昔の日本を彷彿とさせる。

セネガルでは、日本とは別種の様々な病気があるから、むやみやたらと動物に触れてはいけない、と言われている。ただ、公邸の彼女たちに対しては、そこまで警戒する必要はないようで、動物に目のない私は、すり寄ってくる彼女たちの頭やのどを、やっぱりなでてしまう。

そして、今日も私はママンにフランス語で話しかける。ママンは猫語で返事をくれる。

「マダム、あたし、そっちは行きたくないんだけどぉ~」

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