Did you know that?

57. ロッキー山脈をこえて(前半)

今年は慌ただしく始まった。夫は、コロラドの大学から冬学期だけ、歌舞伎授業と3回の学生歌舞伎公演の招聘を受けた。1月3日、公演に必要な衣装、鬘、小道具などを車いっぱいつめて、コロラド・スプリングスへ向けでかけた。往路1350マイル(約2200キロ)を一人で運転して行った。

私はその後すぐに、冬休みで我が家に戻ってきていた娘と一緒に日本に発った。1ヶ月近くの滞在を終え1月30日にポートランドに戻ったが、その3日後には、夫の歌舞伎授業と公演の準備の為にコロラドへ飛んだ。

コロラド・スプリングスは、私が着いた週、マイナス26度の寒波が襲い、血管が凍る程寒かった。この地域の標高は約2000メートルである。寒波の時は、子供たちが路上でスクールバスを待てない程寒いので、学校が休校になる。また標高が高い地域に行くと、平地より空気が薄いため疲れやすく、手足のむくみ、頭痛や睡眠障害もでると言われている。私も時差ボケだけでなく、身体がだるかったが、数日もすると身体も適応して元気になった。しかし、生活の中で最も驚いたことは、チューブに入っている化粧品を使おうと思って蓋を開けたら、中身がピュ〜〜〜ッと輪を描いて飛び出したことだ。大慌てで、「あ〜〜もったいない!」と思ったけれど、飛び出した中身は元には戻せない。気圧の違いは、このような弊害まで起こすのだと改めて自然の違いを知った。そんなこんなで、私はここには絶対に住めないと思ったが、翌週は見違えるほど暖かくなり、近くに見える雪山は美しく、良い街だと思えるようになった。

Garden of the Gods

寒波の翌週は晴れた。Garden of the Godsに観光に出かけた時見かけた若者たち。半袖、短パン〜〜〜?雪が残りまだ寒い日、私はコートにマフラー、手袋で着膨れていた!

学生歌舞伎は、一般公開公演がコロラドカレッジの劇場で3日間行なわれた。3回ともスタンディングオベーションの喝采を受け大成功に終わった。学生たちも私たち関係者もこの準備から公演までの苦労が報われたようで、とても嬉しかった。

歌舞伎公演−「ういろう売り」 曽我五郎と花魁たち

曽我五郎と花四天

アーカイブ: 前半は日本舞踊、市川団十郎氏追悼フィルム、英語落語。後半39分から歌舞伎。1時間3分に「ういろう売り」の早口言葉。

公演も終わり、夫と私はすべての片付けが終わった後、4輪駆動の車にこれ以上ものを詰められない程詰めて帰路についた。私は、初めて車で超えるロッキー山脈がどのようなものかとワクワクしていた。

コロラド・スプリングスから、途中宿泊予定のSalt Lake Cityまで、約11時間の運転予定。運転は、夫と2人、交代でするようにしていたが、私が1回に運転できる時間は最高でも2〜3時間が限度である。夫は、私が比較的運転しやすいデンバーからロッキー山脈の入り口を運転して行くよう頼んだ。私は運転して気づいたのだが、この州の街周辺以外、ほとんどの高速道路制限速度(Speed Limit)は、75マイル、つまり120キロなのである。
「制限速度120キロ?つまり普通皆8〜10マイルぐらい速度オーバーで走る。ひぇ〜〜130キロ?そんな速度で長い時間運転したことないよ〜〜!」
 しかし、人間、覚悟すると強いものである。 初め怖々運転していたのが、その内85マイル(136キロ)前後でも大丈夫になる。警察に捕まらない速度で(警察レーダー受信機を設置していた)、大型トラックをぐんぐん追い越し、時には景色も楽しみながら運転するようになった。

Coloradoのロッキー山脈

ただ、私がこのように運転できる為には、天気が最悪でないこと、道路事情が良いこと、また交通量が少ないことが最低条件にある。夫が一人で運転して行った往路は、途中吹雪にあい大変だったらしい。

ロッキー山脈地帯に入って驚いたことは、どの山も木が少なく、あっても低木、オレゴン周辺の山やカスケード山脈とはだいぶ違う。また雪山に見える山肌は茶色だったり赤茶けていたり……。そうだ「Rocky Mountain-ロッキー山脈」って石(岩)山っていう意味なんだと初めて理解した。人の住まないような、人が住めないような雪山岩山地帯が延々と続く光景は、何とも神秘的だった。

Salt Lake City 近郊の山々と民家

約9時間、途中昼食時間をとってロッキー山脈をこえた。しかし、草原地帯、砂漠地帯は永遠に続く。ユタ州に入って、「Moab-モアブ」という石のアーチがある有名な観光地があると夫が言った。私は、1日に11時間も運転してSalt Lake Cityに住む夫の友人宅に無事につくかどうかだけを心配していたので、途中でどこかを観光するなど考えもしなかった。しかし、観てみたい気がする。そうだ、ここの地に運転して来ることは、今後一生ないだろう。友人宅につくのが2時間程遅れるけれど、大丈夫だろうと相談し、Moabへと進路を変えた。

その景色は、まるでどこか違う惑星へでも行ったかのような錯覚をおこさせほどだった。地球が何百年、何千年、あるいは何億年もかけて創り出した壮大な自然の彫刻の数々を見る思いがした。赤茶けた岩山が繰りなす光景は、アメリカの広大さと共に自然の多様さを再認識させるのに十分だった。

Moab

以前、イースター島がなぜ滅びたかということについて「世界の森林率」というのを調べてみたことがある。アメリカの森林率、つまり国土全体に占める森林地帯の割合は約30パーセントだったことを知って驚いた。ちなみに中国は20パーセント、日本は約70パーセントである。私の住むポートランドは、雨が多いため、緑豊かな美しい街である。この地方に住んでいると、アメリカ国土の70パーセントが草原や砂漠地帯であるとは信じ難い。ところが、オレゴンでもカスケード山脈を越えると草原地帯が広がっていく。アメリカの地図を見ると中央部は黄色が多い。

夜9時、夫の友人宅についた。夫の友人は、モルモン教関係のBrigham Young大学教授で 遠藤周作の研究家である。ご夫婦そろって敬虔なモルモン教信者である。モルモン教は、アルコール、お茶やコーヒー、コーラなどのカフェイン入り飲料水の摂取が禁止されている。彼らの家にもお酒はもとより、お茶もコーヒーもない。コーヒーを飲まないと一日が始まらない夫には、ちょっと辛い日々だった。仕方がないので、毎朝家を出た後、彼らが住んでいる家の近くでスターバックス、あるいはコーヒーショップを捜すが、何処にもない!「おいしいコーヒーはどこで飲めるの〜〜?」夫はもうコーヒー中毒患者のようになって捜す。「2、3日コーヒー飲まなくったって、大丈夫でしょう?」と言うが、聞かない。

今時、アメリカのちょっとした中堅都市では、スターバックスが必ずある。もちろんコーヒーショップもある。ところがこの街にはないのである(あるかもしれないが探し出せなかった)。人口の80パーセントがカフェインを取らない街で商売は成り立たないのだろう。結局、コンビニかマクドナルドには、この地域であってもコーヒーが売っているのではないかと行ってみた。マクドナルドは、現在世界中で34000店舗、アメリカだけでも13000店舗がある。この街にもマクドナルドはたくさんあった。その上、近年、マックのコーヒーはおいしくなったと言われている。夫は朝一杯のマックのコーヒーをおいしそうに飲んだ。

私たちは、翌日モルモン教の本部を訪れた。ユタ州ソルトレイク市の人口の80パーセントを占めていたモルモン教信者数は、現在は50パーセント近くまでなっている。つまり人口の多様化が進んでいるとのことであった。しかし彼らの住む大学街Provo, Utahは依然として80パーセントがモルモン教信者であるそうだ。

モルモン教本部の建物

私たちは、3日目、ソルトレイク冬期オリンピックが開催されたスキー場に行くことにした。私たちが行ったスキー場は、ロッキー山脈Park CityにあるDeer Valleyというところであったが、その眺めの美しさは格別であった。ただ、このスキー場は、今時珍しくスノーボードが禁止され、何故かしら「エリートスキー場」と呼ばれていた。なぜ「Elite-エリート」と呼ばれるか分からなかったが、何しろリフト代金が、1日108ドルと高い。トイレだって壁やカウンターが大理石で作ってあり、掃除も行き届き高級感が漂っていた。また、山の中腹にあるレストランの素晴らしいこと。魚介類やマグロのたたきサラダがでてくる。多くのスキー客が遠路、家族で、春休みなどを利用してくるらしい。
 「エリート」つまりここは、高級「金持ち用リゾート」であることが分かった! 道理で私がうまくスキーが滑れない訳だ!!

 

夫と私は1日だけスキーを楽しんで、残り半分の帰路についた。


Deer Valleyスキー場にて、夫と息子の友人でこの地方に住むGarrettと一緒にスキーを楽しんだ


後半は、来週に続きます。

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