セネガル通信

第5回 野生ということ

公邸の竹に鳥の巣

某国大使公邸での夕食会。お国自慢のデザートが饗され、宴も終わりに近づいた時、 「庭で食後のコーヒーにしましょう」とホストは言い、私たち招待客をサロンに導いた。開け放たれた大きなガラス窓のところでは、レースのカーテンがわずかに揺れていた。

初めて訪れた“お隣さん”(日本大使公邸の周辺、徒歩10分以内にはさまざまな国の大使公邸がありますが、敷地を接する「本当のお隣」が、その日招待を受けた、とあるお国の大使公邸です)のサロンは、お国柄の表れた調度に飾られてとても美しいが、テラスの外に広がる庭もまた、大いに興味をそそられる。私は喜んで庭にでた。

“お隣さん”の、すこしカーブを描いたプールと大理石のような周囲の敷石が、透き通ったブルーの水面とともに宵闇にふわっと浮き出ている。

巣の主。あざやかな黄色の小さな小さな鳥

常夜灯に淡く照らされた幻想的な空間は、一昨年パリのオルセー美術館で観た、北欧の画家の絵にそっくりで、私は、一瞬、自分がどこの国に住んでいるのか分からなくなった。

一週間前までは、厚手のジャケットやストールを羽織らなければならないほど夜は寒かったのだけれど、4月半ばのその夜は、風もなく、ほわんとした空気がほほを優しくなでてくれた。 おそらく気温は19℃くらい。蚊(マラリア!)が心配になる季節がそろそろやってくるけれど、その前の、つかの間の快適な夜だった。

ホステスが、テラスから斜め向こう、生い茂るマンゴーの木のほうを指さして、 「チヅコのおうちはあっちよ」と言った。 建物の角度のせいか、隣家(我が公邸)は全く見えず、ちょっぴり残念。 「あとで、お宅が見えるところに連れて行ってあげるわね」 と、ホステスが言った時、一緒にコーヒーを飲んでいた、別の国の大使夫人が少し頓狂な声をあげた。

「あら~、猫がいる!」 彼女が指さす方、建物に沿って張り出した白いテラスの上を、一匹のしましまの猫が悠然と歩いているのが見えた。

ホステスは、自分は猫は飼っていないのだと言い、「あら、あの子、首輪をしているわ」と付け加えた。

薄暗がりを、もう一度、目を凝らして見た。

(あれ???)
なんかいやな(?!)予感がして、私は、そちらに向かって数歩踏み出した。気配を感じた猫が、後ずさりするようなそぶりを見せる。と同時に、私は叫んでいた。
「ママン、ママンでしょ? そこで何してるの? こっちへいらっしゃい!」
私の声を聞きつけたママンは、我が公邸の庭での散歩の時と同じように、少しだるそうにゆるゆると私のところまでやってきて、「マダ~ム」と、(猫語で)言いながら、いつもと同じように、身体をすり寄せた。

皆が笑った。

「マダ~ム、私、バジルの葉っぱは食べませんのよ~」(ママン)

私は、“飼い主”として、ちょっぴり恥ずかしく、でもちょっぴり誇らしかった。

お隣の公邸スタッフによると、ママンは、かなりしょっちゅうお邪魔しているらしい。ちゃっかり食事をいただいちゃっているのか、と恐縮したが、それはない、とのことだった。

ママンはいつも我が公邸の厨房の入口の階段の横で、食事をしている。

シェフの休日の日曜日には、私自身が厨房で料理をしているが、そんな時、ママンとフィーユは、窓の外から、「あら、ちょっと、それ、それ、私にもちょうだいよ」「どうしてくれないの? ほんの少しでいいのよ」と、とてもうるさい。

彼女たちの視線は、厨房のまな板と、私の姿とをせわしなく行き来していて、つぶらな目で訴えられると“甘い”私は、つい、海老の頭などを手にして戸口のほうへ行ってしまう。「週に一度だから、まぁ、いいかしら」などと、言い訳のようにつぶやきながら。

もっとも、厨房のおこぼれがいつもふんだんにあるわけではない(シェフは“厳しい”から、ちょっと窓の外で鳴かれたからと言って、すぐに“反応”はしません)から、自分で“調達”することもある。

いや、むしろ、自分たちでその日の食い代くらいは、どうにかしなければならないのが、ここセネガルの猫たちの宿命でもあるのだ。そして、狩りに出る彼らにとって、この辺りの環境は決して悪くないとも思える。

とかげ(20センチ長)

レセプションが行われている庭に行けば、労せずに食べ物にありつけるのだし、木立の中に小さな鳥の巣もあれば、土に住む野ねずみのような小動物もたくさんいる。

公邸厨房の入り口付近で、ママンたちの獲物の残骸――たとえば、とかげの足の先とか、鳩の羽などが落ちているのを初めて見た時、今まで一度も猫を飼ったことのない「都会人」である私は、正直、とても驚いた。あんな可愛い顔をして…、と、ショックですらあった。

何週間か前のこと、公邸のちょうど真上の空を、たくさんの鷲やカラスがぎゃあぎゃあと鳴き喚きながら妙な動き――その光景は、“都会人の私”の不安をつのらせた――をしていたことがあった。

さすがに、このような大きいの(60センチ)は公邸にはいませんが(ゴルフ場にて)

生まれたばかりの子猫が鷲に狙われるのは当然だが、ママンたちはまさか襲われることもないだろう、と考えつつもなんとも落ち着かない数十分だった。

その後、公邸スタッフから、鷲が一羽死んでいたことを知らされた。

その死体は、おそらく、その辺のごみ箱に捨てられた。………

その後、厨房前に鶏のももの骨くらいの大きさの、しかし、いかにも大きな鳥の足首、というようなものが落ちていた。………

誰が、どうして、そんなところに、そんなものを抛り出したのか。………

私は、あえて、それ以上想像しないように、している。

鳥はとっても上手に木の実を食べます。ざくろもいつの間にかからっぽ

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