ボストン通信ブログ

ボイコット

ふたつのボイコットに参加している。Market Basket という地元のスーパーの従業員たちが、役員会がくびにしたCEOの復帰を叫んでストライキをおこし、不買運動を訴えているのがひとつ。イスラエル製品の不買がもうひとつ。

いつもは満車の駐車場が…

Market Basket はギリシア系の家族が所有する会社なのだが、そのCEOを取締役会を巻き込んだ従弟がくびにして、その代わりに外部から迎えた2人をCEOに任命したのが始まりだった。他社と比較にならない福利厚生制度を整えて従業員からの信頼が厚いCEOをくびにしたこと、権力を握った従弟が「新しい体制への移行」を以前から訴えていたことから、ほとんどの従業員が立ち上がった。マサチューセッツとニューハンプシャーにしかないスーパーチェーンのこのできごとは「ブルーカラーでも中流の生活ができた職場の最後のとりで」とBBCが取り上げるほど大きなニュースになっている。元CEOが会社を買い取る提案をしても、ほかの企業からの申し出と比べているという理由で答は出ず、ついには「月曜までに職場に復帰しなければくびになる覚悟をしろ」と新経営陣がストライキ中の従業員たちに言い渡した。同日、マサチューセッツでもニューハンプシャーでも、法務長官が「解雇には厳しい規制があることを忘れないように」という声明を出しているほど、市民の注目が集まっている。従業員のストライキと顧客の不買運動は5週間目に入り、従業員は何度もくびを言い渡されながらも「元CEOが戻るまで自分たちも職場には戻らない」という態度を変えていない。ついに今週はマサチューセッツ、ニューハンプシャーの知事が話し合いに参加するという事態になった。

Market Basketはマサチューセッツに本社を置き、ニューハンプシャーとマサチューセッツにしか店舗がないけれども、まわりの誰に聞いても批判は出てこないスーパーである。このあたりに引っ越してきた11年前は、安いことばかりが有名で、生鮮食品は買いたくないお店だった。ところが3-4年前からシメジ、エリンギなど、珍しいものが目に付くようになった。オルガニック食品の人気を反映して、オルガニック・セクションも充実してきたし、大根、さやえんどう、もやし、かぼちゃ、さつまいもといった日本食料品も常にストックされている。しかも低価格である。すぐお向かいにある高めのオルガニック・スーパーの売り上げに影響を与えそうな存在にまで成長した。うちの近所の店舗は敷地が狭くて拡張できないでいるけれども、新しくできた大型店舗ではできたてのパンやピザ、サンドイッチ、サラダ、パスタ類だけでなく、お寿司も店内で作って売っていて、それがかなりおいしいという評判も聞いていた。ほかのすべてのスーパーが、無料のメンバーシップ・カードを作らせることで、それを持つ人にセール対象の商品だけ割引きしている中で (これは個人個人がどんなものを買っているかの情報を得る手段にすぎない)、Market Basket は去年の11月からカードも何もなしに、すべての商品に4%の割引きを実施した。このお店のすごいところは価格だけではない。ほかの大手スーパーが次から次へと顔ぶれが変わる低賃金のアルバイトに全面的に労働力を頼っているのに対し、ここでは従業員の平均年齢が高い。全員が名札をつけていて、名前の下に勤続年数が書いてある。7年、11年というのが珍しくない。どこに何が置いてあるかもよく知っている。レジでは必ず「How are you today?」とか「Thank you」とか言われる。日本では当たり前かもしれないけれど、ほかのスーパーではバイトの若いのがお客の頭越しにぺちゃくちゃおしゃべりしていて、「Thank you」どころかあいさつすらないのがふつうである。買い物を袋に詰めるのも、冷蔵庫に入れるもの、缶詰類などとちゃんと分けてくれるし、洗剤などの化学薬品が入っているものや割れやすい卵などは別の袋に入れてくれる。おまけに「どのくらいの重さまで持てますか」などと聞いてくれる。ずっと値段の高いお向かいのオルガニック・スーパーでは、せっかく時間をかけて選んでリンゴをどすんと袋に投げ入れられて、ため息が出ることが頻繁である。見たことのない日本の野菜などを見つけると「これ、どうやって食べるの?」などと聞かれる。週に何日か91歳のSalが買い物を袋に詰める仕事をしているのだが、まわりの店員がみんなさりげなく気を使っているのがわかる。とにかくお客として気持ちのいいお店なのだ。ほかに比べて福利厚生がずっと整っていると知って、なるほどと思ったのだ。

元CEOが全面的にいい人というわけでもないのだろうし、コストを最低限に抑えたいという従弟の目標はどの企業でも見られることだけれども、そうでない会社があってもいいんじゃないか。この従弟はマサチューセッツでも年収がトップ10に入る人である。それ以上に自分の収入を増やしてどうするんだろう。ストライキが始まった週に行ってみたら、入り口の横にテーブルを置いて「Don't Feed Greed」という横断幕の下でストライキ中の従業員が署名を集めていた。その横には前CEOの写真と「We want our Artie Back!」というプラカードがあった。いつも満車の駐車場はからっぽで、トラック運転手や倉庫管理の従業員もストライクをしているため、店内の棚もからっぽだった。Market Basketの顧客はストライキ中の従業員を助けるために寄付金を集める口座を開き、地元紙に一面広告を出して不買運動への協力を訴えている。

もうひとつのイスラエル製品不買運動。これはアメリカでは決して声を大にしては言えない。アメリカは何が起こっても圧倒的にイスラエルを支援する。アメリカ国民もイスラエルを圧倒的に、全面的にかなり感情的にバックアップしている。それは7年も前からガザで普通の生活ができないほどの封鎖をしても、何度も起こるガザでの戦闘で毎回パレスチナ側に圧倒多数の死傷者が出ても変わらない。今回も72時間の停戦合意に至ったと同時にアメリカ政府はイスラエルに武器を送り出した。わたしが仕事をして払っている税金で、イスラエルはパレスチナの人々を殺戮していることになる。だからせめてもの抵抗として、わたしはイスラエル製品を極力避ける。バーコードの最初の番号が729とあるものがイスラエル製品だと知り、買い物の際にはチェックしている。729という番号を忘れないために、財布の中に入れてもいる。イスラエルに多大な寄付をしているアメリカ企業 (マクドナルド、ダノン、コカコーラ、スターバックスなど) も避けるようにしている。ユダヤ人に対する差別だとは決して言われたくはない。ユダヤ系の友達だっている。けれども現在のイスラエル政府のやり方には絶対に賛成できない。せめてもの小さな抵抗である。

こうしてわたしは今、家から一番近いにも関わらず、緊急でない限りは行かなかった大手スーパーで買い物をしている。ばかでかい店舗で、どこに何があるのかもわからず、おまけにバーコードまでチェックしているとやたら時間がかかる。もしかしたらばかなことをしてるだけかも知れないという思いが頭をかすめるけど、やめないぞ。

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