ボストン通信ブログ

コロラドの山々

デンバーで仕事を終えた後、週末を山で過ごすことにした。車で1時間ほど南に行ったところにコロラドスプリングスはある。

標高4300メートルのパイクス・ピークは、デナリ (マッキンレー) に次いで、アメリカで2番目に高い山。だけど、電車か車で頂上まで登れる。自動車で上る道は景色が素晴らしいと同時に、かなり怖いことでも有名だ。ガードレールがない断崖に面した急な道で、先が見えなかったりする。頂上では空気が薄くて少し頭痛がする。ここから見渡す景色はたしかに言葉に絶する。独立記念日なんかに国家といっしょに必ず歌われる「アメリカ・ビューティフル」という歌の歌詞はこの山頂からの景色を見ているときに作られたそうだ。このあたりにはコンチネンタル・ディバイドというのがあって、そこから西側の水は太平洋へ、東側の水は大西洋に流れて、アメリカの背骨と呼ばれているそうだ。山頂のサービスエリアで、なぜだか名物だというドーナツを食べた。気圧の低いところで揚げたドーナツってどんなものだろうと思ったけれど、外側がカリッと、中はふんわりとおいしかった。

帰り道、ちょうどこれより上は木が育たないというあたりを通ると、たまたまそこに車を止めていたレンジャーが「ここからの景色もきれいだよ。車を止めて見においで」と声をかけてくれた。コンチネンタル・ディバイドや山頂、デンバーの街など、指さして教えてくれたり、高度が実はからだによくないもので、自分もできる限りふもとの仕事を希望しているのだと教えてくれる。オゾン層が薄くて山頂の太陽光は皮膚がんを起こしやすい、気圧の低さは内臓の不調を起こすなども初めて知った。南カリフォルニアの海沿いで育った彼は、コロラドに住むまで、海の美しさに気が付かなかったと笑う。「いいのを一枚撮ろうか」と夫と二人の写真まで取ってくれた。このあと、車でまた下り始めると、後ろから来た彼が止まれという合図をする。車を止めると、「ギアは下げてる?」と聞かれた。「ブレーキをかなり頻繁に使ってるから心配になってね」「ブレーキの使い過ぎで焦げ付いちゃうと大変だから、一番低いギアで降りていくように」と注意してくれた。

パイクス・ピークを降りるとすでに午後3時をすぎていたけれども、赤い奇石群で知られるGarden of Godsを訪れることにした。先のレンジャーから「案内所の映画が面白いよ」と聞いていたので、見に行った。何万年もかかって奇石群が形成された歴史を見せてくれる映画はたしかに面白かった。日も傾いてきたころ、地図を片手に奇石群をまわった。さまざまな形の奇石がかたまってたくさんあって、昔から先住民の人々が神聖な場所として祭っていたというのがよくわかる。とんでもなく高い山々といい、美しくも不思議な奇石群といい、人間の力をはるかにはるかに超えたものをまざまざと感じさせる。普段は宗教や神をほとんど考えないわたしも圧倒された。山々に圧倒されたあとは、日曜からずっと野菜不足を感じていたので、サラダが食べ放題で知られる全国チェーンのイタリアン・レストランを探すことにした。山が近いせいかGPSが不調で、かなり苦労して見つけたそのレストランで、サラダをおかわりして、お腹が満足した。

翌日は午前中にZip Lineを初めてやってみた。谷を越え、木々の間に張り巡らされたラインに金具でつるされながらかなりのスピードでわたっていくというものだ。最初は緊張したけれど、昔ローラーコースターに狂っていたころの感覚が戻ったのか、教えてもらったばかりのでんぐり返しを試してみた。風をもろに受けながらすごいスピードで動くのは、きっとすごい量のアドレナリンを発生させるのだろう。ひさびさに胸がすっきりするような開放感を味わった。そのあとはゆっくり古い街のダウンタウンを歩いた。地元のアーティストの作品を見たり、アイスクリームを食べたり、おみやげものの店をチェックしたり。先住民 (西部劇で必ず悪者にされている「インディアン」という呼び名は抵抗があってなんだか使えない) のクラフトがいっぱいだ。一時期ずいぶんと凝っていた、ベッドの上につるしておくと悪い夢を取り除いてくれるというドリーム・キャッチャーの小さいのを姪たちに買った。「いつかきっとこんな広大な山々を見てほしい」と思って、甥にはアメリカの有名な山の写真でできているトランプを買った。地元の陶器職人が作ったという、夏用のお抹茶ちゃわんのような陶器を買った。

それは今、奇石群で夫が見つけたハート形の小さな石を入れて、キッチンのカウンターに飾ってある。小さいにも関わらず、けっこういろんな種類のレストランがあるこのダウンタウンで、中近東料理のお店を見つけ、夫は牛肉、ラム肉、チキンのカバブを、わたしは刻んだパセリといろんな香辛料がいっぱい入った中近東のハンバーグみたいなクフタを注文した。思いがけず本格的な味のこの中近東料理が二日間のバケーションを締めくくった。

「山にはあんまり感動しない」とこれまで言っていたわたしを、コロラドの山々は見事にくるりと変えたと思う。

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