セネガル通信

第21回 長いメール

今年は、冬が来ない。
 たかだか2年くらい住んだからと言って、ダカールの気候について本当に解っているかどうかははなはだ疑問だけれど……
 去年やおととしの手帳――私は日記をつける習慣はないが、スケジュールノートにいろいろ書き込むので、記録だけはある――には、1月になって羽根布団の厚さを変えたことが書かれている。
 ダカール生活を始めて3ヶ月を経たおととしの1月、数日間だけパリを訪れた時に、あわてて裏が起毛のバスローブを買ったりしたのも寒さゆえのこと、記憶にしっかりインプットされている。そして同じ1月の在留邦人を招いての新年会に、ダウンコートを着ていた女性がいたことも。

だから、私は冒頭のように結論づけるのだが、実際、ここの天気予報でも、1月のこの暖かさ(今年は、夜になって20℃を下回る日が、とても少ない)は、70年振りと言っていた。
 世界中で異常気象、ということだろうか。

去年の新年会に、セーター姿でスイカ割に興じていた子供たち。

今年は半袖。

日本や欧州から美しい雪の便りが届き、ダカールに“冬が来ない”のをちょっぴり悲しんでいるところに、来てほしくないものがやって来た。
 「砂」である。
 今シーズンは、これも過去2年間とは少し違う様相を見せている。
 ダカールの最初の頃のエッセィですでにご紹介したが、アルマッタンという北からの季節風は、本来ならば2月のはずだ。
 “砂の洗礼”に興奮して初めてその写真を撮ったのが2014年2月28日、2015年の2月27日には、出張で出かけていたカーボ・ベルデ――夫の兼轄国の一つ。大西洋に浮かぶ旧ポルトガル領の島国――で、「美しい大西洋の島にまで砂が来た。さぞかしダカールはひどいだろう」と思いやっていたのだ。
 ところが、去年の12月から時々砂曇りの日がある。
 最近、本当の雲と砂による曇り空との違いが少し解ってきたので、この2カ月ほど、なんともいやーな予感がしていたのだが、1月20日を過ぎた現在、曇り具合が日に日にひどさを増している。

まるでヨーロッパを思わせるこぎれいな町、カーボベルデの首都プライア。

翌日は砂に覆われて。

昨年11月、東京から呼吸器疾患専門のお医者様を迎えて、大使館講堂で主に在留邦人を対象とした講演会が催された。
 テーマは『PM2.5と呼吸器疾患』。
 先生は、なんでも、世界各地の大気汚染のひどい地域をまわってくださっているとのことで、ダカールがその地に選ばれたのは“光栄”とは言い難いが、数々の貴重な情報をいただいた。
 「大気汚染物質とは何か」「今日本で騒がれているPM2.5は、人間にどんな悪さをするのか」「実は煙草の煙、蚊取り線香の煙もPM2.5だ」に始まって、WHOの理想とする環境基準値や、日本の現状、アメリカにおける研究内容等々。
 息子が、“悪名高い”北京に近い青島に駐在していることもあり、講演をとても熱心に拝聴した。そして、いただいたアドヴァイスにもあったように、「(インドや中国はとてもひどいけれど)ダカールはさほど心配することもないと思います」と楽天的に受け止めた。

ダカール北部。少し前まではほとんど何もなかった空港周辺も今では大きな市街地を形成している。(新空港をダカール郊外50キロのところに建築中)

もっとも、ダカールで毎日測定しているのは、PM10だ。「2.5」を測定するシステムは持っていない。
 もちろん、サブサハラでは、「10」すら測定していない国も多い(だから、測定していて記録のある、ダカールが講演地に選ばれてしまった!)。
 「測定の必要がない」としたら、それは幸いだけれど、都市化現象は、ダカールだけでなく、サブサハラのいくつかの町に共通するものだと思えるし、都市化、すなわち自動車が急速に増える地域では、どのみち大変深刻な状況に陥ることになる。問題は砂だけでもなさそうだ。

残念ながら、セネガルを走る多くの車両が、猛烈な排気ガスをまきちらしているのも事実である。一応、毎年《車検》を受けなければいけないのだが、どういう尺度で検査合格を出しているのか……。
 プラトーと呼ばれる、港に近い、ダカールの古くからの中心地(地理的には南の端っこですが)は、天気のわりとよい日であっても、7kmほど離れた公邸の辺りから眺めるとうっすらと霞がかかったように見える。
 そして、「砂」がやって来たこの数日間、大西洋は水平線をほとんど失い、プラトーの高層ビルは霧ならぬ種々のスモッグに沈む。

メールに添付された2016年1月26日の《ダカール大気注意報地図》(27日にも同じようなメールが発信された)

1月26日。《大気管理センター》から注意を促す二十行近いメールが届いた。

 Bonjour,
La qualité de l'air de ce 26 janvier est très mauvaise (Indice rouge).
・・・・・・・・・・
Les enfants et les personnes âgées devraient éviter de s'exposer longuement à l'air ambiant pendant la période.
Cordialement.

 メールは「子供たち、高齢者は、この時期、長時間大気中に居ることは避けましょう」と太字で結ぶ。

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