セネガル通信

第25回 着道楽

青く透き通る水の向こう、《プール男》の赤いTシャツが、まるでハイビスカスの花のように鮮やかに浮き上がる。Tシャツの袖がゆっくり上下運動をし、そしてまたゆっくりと止まる。それからダークグレーのズボンが一歩横に進む。
 週に3回、火曜木曜土曜の朝に現れる赤シャツののっぽの彼に、私たちは親しみを込めて、“そのままずばり”を命名した。
 彼の仕事は、庭先にあるプールの清掃である。長い棒のついた大きなへらのような道具でプールの底をこすり、沈んでいるゴミを浮き上がらせては魚網のようなものですくい、プールサイドに集めていく。
 単調ではあるけれど、律儀に同じ動作を繰り返してプールの縁をひと回りする姿につい見とれて(これから、忙しい一日が始まるというのに!)しまうこともある。黙々と作業をする人を眺めるのが大好きだ。

彼と直接言葉を交わすことはほとんどない。なにしろ、たいていが早朝のご出勤で、寝間着姿の私は、公邸2階にある寝室の窓のカーテンの隙間から、「おはよう。プール男」とつぶやくだけである。

彼はとても背が高い。そしてとてもスリム。これが、セネガル男の、ひとつのタイプでもある。190センチは軽くあるだろう。頭が小さくて、十頭身。
 日本ではスタイルのよい人のことを「八頭身」と表現するけれど、そして、現実には日本人は六から七頭身くらいが平均だと思うけれど、セネガルには、十頭身も珍しくはない。

インドネシア165、日本170、フランス175、英国180・・・各国の男性の平均身長は、だいたいこんなもんである(私の記憶が正しければ)。
 昔、アフリカに足を踏み入れるまでは「赤道から離れるほど、北に行くほど動物は大きくなるのよね」「ほら、くじらだって、ホッキョクグマだって」「だから人間も」などと笑いながら納得していた。
 だから、セネガルに住んで、地球の赤道に近くても、こんなにも大柄な人たちがいるのだということを知って、「法則はどうしちゃったの?」と、とても驚いている。

自宅のパーティーで取材を受けるクンバ・ガウロ

大柄なのは男性だけではない。180センチを越えると思われる女性も大勢だ。
 こちらに来て、親しくおつきあいするようになった人々の中に、クンバ・ガウロという、おそらくセネガルで一番有名かつ人気の高い女性歌手がいるが、彼女もとても背が高い。

おまけに、パーティーの席などでは、高いヒールのパンプスなどはいていたりするから、181センチの身長の夫よりも大きく、170センチの私――日本女性としてはとっても大柄のはず!!――など、見降ろされてしまう。
 普段はいわゆる洋装が多いのだが、たまに彼女がセネガルのツーピースをまとうと、ウエストの位置がとんでもなく高いこと、足がすーーーっと長いことに改めて気づく。セネガルの女性服の典型は、ウエストをきゅっと絞ったブラウスにマーメイドスタイルのロングタイトスカートなのである。

もっとも、どうやらこの服のデザインは最近のもので、おそらく、30年前にはなかったのではないかと思われる。なぜなら、年配の女性には、ピッチリとしたマーメイド姿はあまり見ないからだ。
 その代わりに、なんだかとっても可愛らしいハイウエスト切り替えで、ギャザーを寄せたロングスカートのワンピース姿をしばしば見かける。

タタ・アネット(本名はアネット・ンバイ=デルヌヴィル女史)

 私が敬愛する、90歳近いタタ・アネット――セネガルで最初の女性ジャーナリスト。皆から尊敬されている――も、いつもそんなデザインのワンピースをお召しだ。
 腰や太ももがピタッとしていない分、ウエストも全く締めていない分、着心地はとてもいい。しかも、従来の民族衣装とは違って軽やかで活発に動き回る女性にはうってつけ。きっと植民地時代の最後の頃にでも大流行して、そのまま定番化したのだろう、と私は思っている。

細身ツーピースにせよ、ゆるめのワンピースにせよ、このふたつの服は、現在、セネガル女性の制服と言っても過言ではないほど皆に愛されているデザインだ。ダカールでも地方都市でも、“都会”の女性たちの多くがこれを着て歩いていて、そのスタイルの良さ(もちろん、民族によっては、太目の女性も多いけれど)にハッとすることも少なくない。

でも、正統派(?)セネガル服は、実はもっとすごい。おそらく、西アフリカに何百年か伝わる彼らの真の意味での“国民服”。
 これは、特段「スタイル」とか「デザイン」があるわけではなく、“丸首長袖の大きなロングドレスと上からガウン”という説明で事が足りるだろうか…、布地をあますところなく使った、それはそれは贅沢な服である。
 デザインがほとんどない、ということは、純粋に布地の質が問われるわけで、プリント地であれば柄や色を競い、無地であれば織りや光沢や刺しゅうを競う。おしゃれなセネガル女性の腕の見せ所!

街で見かける女の子たち

日本や欧米と変わらない超モダン?な夏着は、中学生くらいに多い。バナナ売りのTシャツに巻きスカートは、労働着? 田舎の働く女性の典型。

布地を6メートルも7メートルも使った贅沢な衣装をまとって、さらに、共布かあるいは洋服に合わせて選んだ布地のスカーフで頭をじょうずにくるむのが最高のおしゃれ。このスカーフがまた、80センチ幅で2メートルくらいのただの長方形で、それがどうしてこんなふうに結べるのだろうと思うほど派手な形に仕上がる。
 “第一正装”の彼女たちを見ていると、普通の洋服がなんと地味に見えること。
着物でなければとっても対抗できない! と私は思う。

年配女性が集まると・・・地方でも都会でも、布地たっぷりです。

大統領府での昼食会

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