セネガル通信

第28回 おもてなし

十一月。雨季は終わった、、、はずだった。

だから、本来ならば、乾季に入って、カラカラとした強い風が吹いても良いころなのにいつまでも蒸し暑い。このところの無風状態は、いったいなんなのだろう。ダカールらしくもない。
 時節的にも、各国のレセプションが続く中、私たちの話題はいつも「今年はへんなお天気ですね」で始まるのだ。
 食事だろうかカクテルだろうが、大人数の集まりとなるとガーデンパーティーを催すことが多い土地柄なので、ホストは気が気ではない。

11月4日の曇り空  半旗を掲げる公邸玄関

今日は、おまけに、どんよりとした雲が空一杯に広がり雨まで降り始めた。音もなく天から降りて来た絹糸のような雨。まるで三笠宮様の斂葬の儀にあわせたかのように、静かなしめやかなる雨である。

先日、ロシア大使夫人が、長い休暇からダカールに戻った。かの地ではすでに雪が降り始めたという。ちょうど同じころ、日本の友人からも、「北海道ではもう雪です」という便りが届き、「それもまたずいぶんとお早いですね」という感じでメールを読んではいたが、あらためて、まぁるい地球の大きさを想った。
 そして、アフリカ大陸の反対側、秋が深まるにつれて赤く黄色く、美しく変化しているだろう日本の風景を、懐かしく思った。

ダカールに住むがゆえに、そして身体自体はそれなりにダカールに慣れてしまったがために、私の季節感はとんでもなくずれてしまっているのだけれど、やはりどこにいても、私には「季節」とか「天候」の話が欠かせない。これも日本人として生まれたからなのだろうか。

『にぽにか』も貴重な“教科書”

今、私が熱心に公邸スタッフに教えているのは、「四季のうつろい」である。
と言っても、そもそも雨季と乾季という括りしかない所で育った人たちにどうしたらうまく伝わるのだろうか。
 でも、ありがたいことに、21世紀のITの発達で、私たちはたくさんの動画を入手することができる。だから、とりあえずは、日本の四季に関するものを集めて、少しずつ鑑賞することにした。
 動画を途中で止めながら、何度も何度も説明する。
 雪の白さや冷たさや。夏祭りの楽しさや花火の豪華さや風鈴の音。秋の紅葉の美しさには、「緑」か「枯れる」しか知らないスタッフたちも一斉に「わーお!!」と歓声をあげた。

とどめは、桜だ。
 アーモンドの花を知る欧州の人々には説明も簡単だった桜の花だけれど、アーモンドの花を見たことのないセネガル人の彼らには、こんなふうな、淡い色の可憐な花の存在自体が想像できないに違いない。
 セネガルのブーゲンビリアも、ハイビスカスもとっても美しいけれど、、、フランボワイヤンの満開の頃は、もちろん「すご~い!」と思ってその美しさを堪能するけれど、、、
 だから、とりあえず、桜花のアップを見せ、千鳥ヶ淵の並木や、どこともわからない山里の桜吹雪の映像を、ひたすら繰り返した。
「日本人はとにかく桜が大好きなのよ。だから、そのせいもあると思うのだけれど、日本の新年度は4月なの。世界中で9月か10月を新年度にしている国がほとんどだけれど、おそらく、日本はそう簡単に世界とあわせることはできない。」

ブーゲンビリア

フランボワイヤン 6月をピークに、2か月位あちらこちで、真っ赤に“燃えあがる”

こうした四季の変化を私がスタッフたちに説明するのには、少し訳がある。
 いや、実は、スタッフだけでなく、ここで出会ったいろいろな国の、日本を知らない人々にも、ついつい説明してしまう。なぜなら、それが、私たちの文化にとても大きな影響を与えて来たということを、私は知っているからだ。
 私たちの文化の美的尺度もまた自ずと、そこに根差した部分が多く、それは日常生活の折々にも現れる。
 そしてさらに、私たちの風俗習慣のみならず、ものの考え方にまでそれはしみこんでいると感じているから。大使夫人という立場であればこそ、それをきちんと世界の人々に知ってもらいたいと願うからなのだ。

現在、私たちの公邸料理人を務めてくれる津久井茂氏は、フランス料理の専門家だ。公邸での最高の会食はガストロノミーフランス料理である。
 でも、私たちはそんな時にも、さりげなく和食器を使ったり、塗りの器におつまみを入れたり、もちろんおしぼりも。晩餐の始まる時には、ホワンと温かいおしぼりをお出しして、晩餐の最後には、今度は冷たいおしぼりをお出しする。
 真夏のテラスの、女ばかりのお茶の時間にはキンキンに冷やした真っ白いおしぼりが、私たちのお喋りの糸口にもなる。
 そんなこんなを、公邸スタッフに、理屈ではなくて、“自然に”分かってもらいたくて。

塗りの器の貴重さだとか、和食器には時として“正面”があるだとか、箸だとか箸置きだとか。
 そういった道具類の美しさや、使い方の一つ一つが、日本的な美意識のみならず、きめの細かさ、丁寧さにもつながり、そしてひいては、相手をおもんばかるというおもてなしの精神にもつながっていくことを、私は一生懸命伝えたいと思うのである。

女だけでひな祭り 津久井シェフのメインディッシュは舌平目の蛤ソース。デザートはフランス菓子《オペラ》をシェフのアレンジで。

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