セネガル通信

第29回 クリスマス考(1)

私はぬいぐるみの好きな子供だった。
 アメリカに外遊した祖父――昭和30年代、多分、船旅だったのではないだろうか――が女の子の孫たち5人全員に、金髪に長いまつげの青い目を閉じたり開けたりさせる、“ミルクのみ人形”をおみやげにして帰ったことがあった。
 祖父にもらったその人形の運命はとてもはかなかった。たまたま祖母が自分の荷物と一緒に持っていてくれて、孫である私の手を引きながら大森駅の雑踏の中を歩いていた時に、落としてしまったのだ。人形がないことに気づいた祖母は、歩いてきた方向を戻りながらしばらく探してくれたが、見つからなかった。
 でも、私には、その事がとても悲しかったという記憶がない(うっすら記憶に残るのは着物姿の祖母と駅の人混みだけ)。その理由は分からないが、なんとなく、「素敵なきれいな女の子だから誰かが拾って連れて行ってしまっても仕方ない」と思ったような気がする。人形の名前もまだ決めていなかった。

これも、はっきりとした記憶があるわけではないけれど、その時泣かずに聞き分けのよい幼児でいられたのは、もしかしたら、「私にはペンがいる」という思いがあったからかもしれない。
 ペンという何ともそっけない名前のペンギンは白と黒のビロードでつくられた、肌触りのとても良い大きなぬいぐるみで、私の記憶に全くないほど“昔”から私のそばにいた。私は自分の体の半分(?)くらいもある大きなペンと、毎晩一緒に寝床に入っていたのだ。

ペンは、後に私にとっても母校となる、母が通ったカトリック系の女子校の修道院のクリスマスバザーで買ってもらったものだ(と昔聞かされた)。
「サンタさんがくれたのよ」と言われたかどうか、それも定かではない。12月生まれの私への誕生日プレゼントだったのかもしれない。いずれにしても、ペンは「バザーの子」だった。私は、クリスマスバザーも大好きだった。

今年のケルメスのための小冊子

今年もまた、《カエダス》(在セネガル外交官配偶者の会)が主催するケルメス(仏語:聖人などの祝日に行われる野外のお祭りや慈善バザーのこと)に参加した。
 私は、もちろんカエダスのメンバーだから、ケルメスを訪れるだけではなく、スタンド・ジャポンを設けていろいろな物を皆さまに買っていただくことで会の活動の一助とする。カエダスのケルメスはチャリティーバザーだから、少しでもたくさんの“商品”を皆さんに買っていただき、少しでも多くの寄付金を集めたい。
 バザーは、春に行う慈善パーティーとともに、カエダスの二大行事の一つであり、ことに日本は、スタンドでの売り上げが大きいので、メンバーたちからとても期待されているし、その期待を裏切りたくない、という気持ちも私には働いてしまうのだ。

スタンド・ジャポンでは、絹のスカーフから百均グッズ、公邸料理人津久井シェフのちらし寿司弁当(予約が入る人気商品)に日本酒も売ります!

それにつけても、毎年、スタンド・ジャポンで何を売ろうかと思案する。売れればいい、というわけでもない。そこにはやはり日本らしさが欲しい。何しろ、外交団のバザーなのだから。
 和紙が世界遺産に加えられた年には、一時帰国時に江戸時代から続く和紙の老舗に出かけ、一筆箋や手帳や小箱など、和紙の製品を買い集めて飛行機で運んだっけ。
 横浜の友人の会社から卸値で譲ってもらう絹のスカーフや和柄の美しいハンカチは“定番”になった。去年大人気だったUVカット加工の木綿のストールを今年もまた! 「夏の長いセネガルでは必需品ですよ。日本の技術、是非お試しください」というセリフも堂に入ったものだ。

某欧州国大使の末っ子君(日本生まれ)。柔道着で、スタンド・ジャポンの名売り子。

今年の商品ラインナップを考えていた時、私は、夏に、カエダスの仲間たちに“お箸の使い方教室”をした時のことを思い出した。
 あの時も、実際、「まだまだだなぁ」という印象をもったのだ。SUSHIは世界語になっているけれど、お箸を使える人は、数人のアジア人を除いたらほとんどいなかった。箸や箸置きの使い方、テーブルセッティングを説明しながら、中国とも韓国とも違う私たちの文化習慣があることをもっと熱心に広めなければ、と感じていたのだ。
 同じ頃、チェコのLさんに突然、“跳ねるカエル”の折り方を教えてほしいと言われた。日本に行ったことはないけれど日本のことにとても詳しい彼女は、“馬”と“蒸気船”なら折れる、と言う。
「でも、カエルはYouTubeの説明を見ていても一人では作れないのよ」

これだ! 私は折り紙でクリスマスオーナメントを作って商品にしようと決めた。2年前にも作ったけれど、今年はもっともっとたくさん作って、日本人の器用さ、緻密さを大いに宣伝しよう。

せっせと折ったクリスマスオーナメント

大使館員夫人も巻き込んで、私たちは時間を見つけては折り紙に励んだ。折り紙専門の紙だけでなく、日本からのいただき物の色とりどりの包装紙まで四角に切って、鶴とか風船とかくす玉とか・・・。
 忙しい毎日の中でのオーナメント作りは、趣味の世界を通り越して夜なべ仕事のようではあったけれど、辛くはなかった。むしろ、ふと生じた静寂の15分はセラピーのよう。
 小さな正方形の角と角を合わせながらピタッと折り、斜めに広げてまたたたみ、そして折り重ね…と繰り返していくうちに美しい形が現れてくるのを見るのは、ある種の快感でもあった。
 今年のケルメスでクリスマスバザーを始めて経験した若い館員夫人たちにとっても、楽しい思い出の一つとなっただろうか!?

ケルメスにはダカールのブティックもたくさん出店。フードコートでは中国大使館が総出で、水餃子を提供。おいしかった!!


買い物に飽きちゃった子供たち。男の子はグランドを駆け回り、女の子はアクセサリー作り。


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