セネガル通信

第36回 園芸店(その1)

「造花のような」という表現は、花たちにとって決して誉め言葉ではないと思うが…。
 その植物を初めて見た時、私は、誰かがいたずらをして枯れ木にピンクの造花を結びつけてしまったのだと思った。その姿はなんとも異様で、日本人たる私の‘常識’には登場しない植物。全体としてずんぐりむっくりした形は、覚えたばかりのバオバブに少し似ており、しかし、バオバブの大木とは全く違う。なんとも理解しがたいフォルムであった。

サリーへ向かう国道沿いのバオバブ林

その日、私たちは、ダカールを離れて、南のリゾート地サリーに向かった。ダカールに住み始めてまだ2か月たらずのことである。ダカールを出て、地方の土地を訪ねるのも初めてのことだった。
 サリーでは、ある政治家の別荘を訪ねた。
 ひとしきり挨拶が済むと、「よく来ましたね。まぁ、食事をして行ってください」ということになった。
 「いえいえ今日はちょっとご挨拶に参っただけですから」というのをほとんど‘無視’されて、庭のテラスにしつらえられた籐のソファに座らされるとジュースが供され、なんとなく世間話が始まり、そのまま「昼食を今用意しているから」と再度言われ、席をたてなくなった。

ホスト自らサーブしてくれた羊肉の煮込み。(この時は知らなかったが)羊は、セネガルでは特別の大ご馳走。

お皿からはみ出ています。大変おいしいものでした。

この「食事でもてなす」がセネガルのごく当たり前の習慣だということを、私たちはその時全く知らなかったのだが、まさか、その食事が始まるまで、さらに2時間以上かかるということも、想像だにしていなかった。

政治家は、その頃、政治的確執から、ちょっと「失意の人」という感があった。だから話は‘綿々’と‘縷々と’して、辛気臭く終わりがなかった。
 ただでもセネガル人のフランス語は聞き取りにくいのに、話が話なだけに興味を失った私の耳は彼の言葉に追いついて行かれない。いつの間にか、庭の芝生や植栽に関心が移っていた。
 その時に見つけたのだ! 
 世にも奇妙な‘オブジェ’を。
 1メートル50センチくらいの、枯れてしまって葉を落とし、枝だけを残したかのような、ずんぐりむっくりしたグレーの裸木に三つ四つほど、小さなピンクの花がバランスも悪くくっついていた。
 「花をつければいいってもんじゃないでしょ?」
 造花と信じ込んだ私は、別荘の主の趣味の悪さをちょっと嘆いた。

ところが後に、正月休みにまた訪れたサリーの浜辺で、白い砂を素足で気持ちよく踏みしめながら散歩していた時、あちらこちらにこの植物の背丈が6~70センチのものが植わっているのに気づいた。
 1か月前とは違い、今度は、たくさんの花をつけている。全体のイメージとしては「変わってるぅ」という印象をまぬかれないが、それは誰かの造作ではない。私はそれが本物の花であることを、その時知った。
 水もないのに健気に咲き誇る花たち。
 乾ききった空気と容赦なく照り付ける太陽の下で、つつじを少し小ぶりにしたようなピンクの花が、くねくねと伸びた枝の先、あちらこちらを向いて花弁を開いていた。
 またもや‘常識’がガラガラと崩れるのを感じながら、私はちょっぴり恥じ入り、心の中でその花に詫びた。

正月休みも終わりダカールに戻る折に、私たちは、サリーの町はずれの国道の横に、セネガル特有の園芸店が並んでいるのに気づき、車を止めた。
 セネガルの公用語はフランス語だが、人々のフランス語理解能力は、残念ながら決して高くない。ことにこういった露天商の彼らには、満足に小学校にも通わなかった人たちが多い。
 でも、幸いなるかな、植木という限られた商品だけを扱っているのだし、私も買いたいものを指さすだけなのだし、さほど難しいことはない。
 植木屋の青年は、花の名前を尋ねても首をかしげるだけだったが、値段だけはしっかりとフランス語で言ってくれた。
 価格は、もちろん株の大きさによる。小振りのものでも、それなりに高価だった。花をたくさんつけたものは、さらに高かった。

ホテルのレストランの各テーブルに飾られていたもの。ホテルのブティックでは、たいそう高値で売られていました。

私は、20センチくらいに育った、花をいくつかつけたものを二つと、てっぺんをパツンと切られてしまって、単に10センチくらいの棒切れのような‘物体’――でも新芽をいっぱいつけているように見えた――を一つ選び、さらに、発芽したばかりと見受けられる、2センチのおチビさんを一つ選び、買った。
 車のトランクに株を並べてくれながら、青年は、にこっと笑うと、さらにもう一つのおチビさんを、私に差し出した。

この花の魅力を、どう表現すべきか、私の中に適切な語彙がない。できるのは、
 「とにかく、なんとも魅了されてしまったので、是非この花を自分でも育てたいと思った」
 「公邸に持ち帰り、小さな素焼きの平たい鉢に植えかえて、私はそれらを《バオバブ盆栽》と名付けた」
という平凡な文章を書くだけである。(つづく)

リゾートホテルの廊下では、クリスマスツリーのように飾られて

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