ケアンズ通信

1. 恋愛年齢、オーストラリアの場合

前回のエッセイで自分の事を「51歳、独身、おまけに恋人無し」と書いたが、読者の中には「『51歳、恋人無し』って、このオバサン、もしかして今から恋人が出来る事を期待してるの?!気持ち悪~い!」と思われた方もいらっしゃったかもしれない。51歳といえば孫がいてもおかしくない年齢だ。そんな年になって、恋人だの恋愛だの言っているというのは、日本では「非常識」に当たるだろう。「イタイ人」と指をさされるのかもしれない。私の拙い文章のために、「e翻訳スクエア」の読者の皆様を不快な気持ちにさせ、サン・フレアさんのイメージを傷つけるわけにはいかないので、今回は「恋愛年齢、オーストラリアの場合」について弁明させて頂きたいと思う。

私も日本に住んでいた頃は、恋愛というのは若い人のものだと思っていた。しかし、ここオーストラリアでは違うのだ。この国では恋愛に年齢制限は無い。先日、職場でイギリス出身の30歳の営業マンと、共通の知人である60代の女性について話していた時の事、数年前に離婚をし、今は一人で暮らしているその女性について「彼女、今はボーイフレンドいないのかなぁ?」と30歳営業マンがごく自然につぶやいた。彼にとっては自分の母親よりも年上にあたる女性だが、何歳になってもボーイフレンドがいるのは当然と考える環境にあるがゆえの疑問だろう。
 そして、そんな「若くなくても恋愛はできるのだ」と思わせる出来事が、私自身にも起こった。以前「オーストラリア恋愛事情」のエッセイの中で「スーパーマーケットでの出会いの可能性」を書いたが、何と、これが自分の身の上にも実際に起きたのだ。51歳の私が、スーパーマーケットで男性に声をかけられるという、日本ではありえないであろう驚異的な出来事が、ここオーストラリアでは起こり得るのである。なんて素敵な国なんだ、オーストラリア。中高年シングル女性に勇気を与えると思うので、ここで披露させて頂きたいと思う。
 仕事帰りにスーパーマーケットで買い物をしていると、「間違ってたらごめんなさい。前にどこかで会わなかった?」と30代半ばに見える長身で金髪巻き髪、さわやかな男性に声をかけられた。彼の言葉をそのままに受け取った私は「私、不動産会社で働いているから家の内覧会で会ったのかなぁ」と言うと、「そうかもしれない。どこの不動産会社?」と聞いてきたので、胸を張って自分の会社の名前を答えた。すると「自分はテニスが趣味なんだけど、最近引っ越してきたばかりで一緒にプレイする人がいないんだ。テニス好き?今度一緒にやらない?」と誘ってきた。「テニスなんてもう何年もやってないし、ラケットも持ってないし」と答えると「じゃぁ、コーヒー飲まない?いつだったら時間ある?」と聞いてきた。私はここにきて初めてナンパだと気が付いた。そして猛烈に狼狽えた。「この人、私をいくつだと思ってるの?目的は何?スーパーで誰彼構わず声をかけてる変質者?」どう答えてよいかわからず、うまい言い訳も思い浮かばず「え~っと、私は毎日すごく忙しくて、コーヒーを飲む時間もないし・・・」とぼそぼそ言うと「じゃぁ、とりあえず電話番号を教えて」と自分の携帯電話に私の番号を登録しようとしている。自分の勤務先を言ってしまったことを後悔したがもう遅い。「私の電話番号?何番だったっけ?あれ?度忘れしてしまったな~」。私はその時、左手に買い物かご、右手に財布と携帯電話を持っていた。彼は私の携帯電話をじっと見つめている。「私の電話番号は・・・うちの会社のウエブサイトででもチェックすれば!」破れかぶれな気持ちで小声でつぶやいて、そそくさとその場を立ち去った。

その後、友人のオージー男性二人に別々にこの話をして意見を聞いたところ、両者からそれぞれ「スーパーでナンパなんて稀。彼は勇気を出して声をかけたんだよ。それなのに『電話番号はウエブサイトでチェックしろ』なんて言われて傷ついたと思うよ、可哀そうに」と言われた。女友達からは大爆笑され「あなたは仕事のことしか考えてないから、そんな反応しか出来ないのよ。もっと色気を出さないと」と諭された。私は深く深く反省し、後悔したが、時すでに遅しである。先日、違うスーパーマーケットで「こんにちは。ちょっと時間ありますか?」となかなか素敵な紳士から声をかけられたので、「おぉ、また来た!」とほくそ笑んだが、グレイヘアーのジェントルマンは、新しいコーヒーの試飲を勧めているお店の人だった。逃がした魚は大きい。
 私がこのスーパーマーケットでのナンパ事件をケアンズに住む一つ年下の友人(日本人女性)に話したところ、彼女はガソリンスタンドで給油中に声をかけられた経験を話してくれた。「不躾な質問で申し訳ありませんが、今、パートナーはいらっしゃいますか?」と、きちんとした身なりの男性に声をかけられたらしい。「あぁ・・はい」と彼女が答えると「そうですか・・。失礼しました」と男性は自分の車に戻っていったとのこと。
 自分の事はよくわからないが、少なくともこの友人は、物欲しげに見えるというようなタイプでは全くない。胸の開いた服を着ているわけでも、ミニスカートで足をだしているわけでもない。彼女に声をかけた男性は、知的で透明感のある彼女に惹かれて、勇気を出して声をかけたのだろう。私達のような年齢のオバサンでも、女性として見てくれる男性がこの国には存在するのだということを再確認できたエピソードだった。

これまた私の前のエッセイ「オーストラリア恋愛事情」でもご紹介しているが、今現在、オーストラリアで恋人を探す一番一般的な方法は、インターネットのデーティングサイトだ。年齢を問わず恋愛成立の場所として利用されている。老人ホームで暮らすおばあちゃんの一人が、デーティングサイトで出会った人についてホームの他の入居者に話をしているのを聞いた、とホームで働く友人が話してくれた。この国には恋愛に年齢制限はないのだとつくづく思う。
 恋愛するのに年齢制限はないが、恋愛精神年齢というものはあるかもしれない。恋愛に対する考え方や関わり方は人それぞれで、少女の恋愛観、熟女の恋愛観がその人の実年齢と一致していない場合も多い。
 私の恋愛精神年齢は、集英社発行の少女漫画雑誌「りぼん」の読者と変わらないと、こちらに住む日本人の女友達二人から言われている。「りぼん」の読者対象年齢は小学生から中学生のようだ。そういう彼女たちの恋愛精神年齢は、それぞれ愛読書「なかよし(講談社)」と「少年ジャンプ(集英社)」だそうだ。別の友人にこの話をしたところ「言いえている」と大爆笑されたので、きっと当たっているのだろう。「りぼん」の私は「なかよし」の友達よりは上位にいると密かに優越感を持っているが、間違った行動を取ると、ドラえもんで有名な「コロコロコミック(小学館)」にすぐに格下げされるので気が抜けない。今の目標は「りぼん」から「マーガレット(集英社)」への格上げだ。そのためには、次にスーパーマーケットで男性に声をかけられることがあれば、落ち着いて、余裕を持って、大人の女性として優雅に対応しなければならない。「マーガレット」の次は一気に「家庭画報(世界文化社)」を目指してみるか。いや、ちょっと冒険して「女性自身(光文社)」方面へ行ってみる?な~んて言っている私は、いつまでたっても恋愛精神年齢が実年齢に追い付くことはないのだろう。

恋愛精神年齢に国籍は関係ないようだ。私と同年代の独身オージー女性の友人は、知的でスタイルも良く美人なのだが、「カフェでお茶を飲んでいて、他のテーブルの男性と目が合い、お互いに『この人を探していたんだ!』とわかるような出会い」を真剣に待っているらしい。彼女からその話を聞いた時、思わず「もしも~し、大丈夫?あなたの年は11歳なの~?!」と突っ込みそうになった。

『Neighbors』- チャンネル11で月曜日から金曜日まで午後6時半より30分間放送

オーストラリア人の恋愛観は、こちらのテレビドラマからも見て取れるかもしれない。民放テレビドラマ『Neighbors』と『Home and away』はそれぞれ1985年、1988年に放送が開始した人気番組で、共に平日の夕方放映されている。
 『Neighbors』の舞台はメルボルン、『Home and away』の舞台はシドニーに近いビーチと設定も違うことからファン層は分かれているが、家族、友情、仕事、お金、病気、誕生、死といった人生模様が幅広く描かれていて、様々な年齢の登場人物が常に誰かと恋に落ちている点は、どちらも同じだ。私は『Home and away』派だが、ドラマを見ていて「こんなこと有るわけないじゃない!」と突っ込みたくなるような出来事が、後日、自分の身近で起こったりもするから驚きである。これだからオーストラリアは面白い。もしかしたら、前述の友人が夢見ている「カフェでの運命の出会い」もこの国では有り得るのかも!私もカフェ通いを増やさなくっちゃ。

『Home and away』- チャンネル7で月曜日から木曜日まで午後7時より30分間放送

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