ケアンズ通信

2. Table for one

パートナーと別れてシングルになった知人の男性が「シングルになって一番堪えるのは、夕食を取るためにレストランに入って“Table for one”って言う時。とても屈辱的だ」と話していた。こちらのレストランに入ると、予約をしていないお客さんに対しては、ウエイティングスタッフ(ウエイトレスまたはウエイター)が、同伴者の人数を確認するために、“Table for two?”、“Table for three?”と聞いてくる。お客さんのほうから先に“Table for four, please.”と言う事もある。一人で来店していれば当然“Table for one.”となる。パートナーがいる人も、出張先などで一人で食事をすることも有るだろうし、“Table for one”イコール「シングル」とは限らない。「シングル」イコール「寂しい人」だとも思わないので、前述の男性のコメントは大袈裟に思えた。

出張や旅行は一人で行く事が多い私は、旅先での食事は一人でとることが殆どだ。一人でレストランに入ると、ウェイティングスタッフが私の後から来るかもしれない同伴者を探しているのがわかるが、向こうから聞かれるのを待たずに“Table for one, please.”と言うのは結構気持ちよい。「外国人の女一人だって、堂々と食事が出来るのよ」というところを証明したいという潜在意識が働いているのかもしれないが、私の中では、自分が選んだお店で、食べたい物を自分のペースで楽しむ“Table for one”に、寂しさも屈辱感も無い。もちろん同伴者がいないと話をする相手がいないので、食事がアッと言う間に終わってしまうという勿体無さ感は有るし、食事が来るのを待つ間の手持ちぶさたを紛らわすために、レストラン内や料理の写真を無意味に撮って、普段はご無沙汰のインスタグラムやフェイスブックに投稿してしまう、という悲しい習性は否めないが。

先日、八か月ぶりの休暇を取って、三泊四日でオーストラリア国内に一人旅に出かけた。今流行の民泊(Airbnb)に泊まり、移動はウーバー(Uber)を使って快適に旅行を楽しんだが、夜に食事をしたレストランから民泊まで帰る際に利用したウーバーの運転手から「どこに行ってたの?」と聞かれて「食事に」と答えると、「一人で食事したの?誰も一緒に食事してくれる人はいなかったの?それは、寂しかったねぇ・・」と同情たっぷりに言われた。運転手はカリフォルニア出身で本職は絵画の販売という中年男性だったが、「“Table for one”って、そんなに寂しいことなの?」と改めて考えるようになった。

数年前、オーストラリア国内のリゾートホテルに一人で宿泊したことがある。朝食を取るためにホテル内のレストランの入り口で、テーブルに案内されるのを他のゲスト達に交じって待っていると、私の前に並んでいた高齢の男性と一緒のテーブルに案内された。テーブルの数が足りなくて相席なのかと思ったが、ウエイトレスがオーダーを取る時に、同席させられた男性に対して私のことを“Wife”と言うのを聞いて、間違えられたことに気が付いた。その男性も私も“Table for one”が必要だったのに、リゾートホテルで“Table for one”のお客さんは多くはないのだろう。間違いに気が付いたウエイトレスは平謝りに謝り、私に新しいテーブルを用意してくれた。

そのホテルにはレストランが一つしかなく、ホテルから街までは離れていたので、私はホテル滞在中は(といってもわずか三泊四日だが)、コーヒーを飲むのも食事をするのもそのレストランに通うことになり、スタッフ達は私の顔と名前を覚えてくれた。食事をしていると、ホテルの女性ジェネラルマネージャーがやってきて「あなたのような女性の一人客は珍しい。勇気が有って素晴らしいわ」と褒めてくれた。私は目の前が海という理由だけで、深くも考えずにそのホテルを選んだのだが、リゾートホテルでは、“Table for one”も“Room for one”も私が思っていたよりも珍しいことなのだと学んだ。

オージーの友人数名に“Table for one”について聞いてみた。住んでいる場所や性別、年齢によっても違いはあるものの、オーストラリアでは夕食はソーシャライズ(社交)の一つとみなされるので、朝ご飯やランチは一人でも問題ないが、夕食での“Table for one”には消極的だという人が殆であることがわかった。友人の一人は「日本に旅行した際に、レストランで夕食を一人で食べている仕事帰りと思われるスーツ姿の人があまりにも多くて驚いた」と話してくれた。彼女は「日本では遅くまで仕事をするので、家に帰る前に食事をするのかもしないが、オーストラリアでは家へ帰ってから家族やパートナーと一緒に食事をする、または家族やパートナーと外へ食べにいくのが普通」だと説明してくれた。「一人で食事をしていて『この人、一緒に食事をしてくれるパートナーも友達もいない寂しい人なのか』と周りから思われるのが嫌」「“Table for one”と言うと、ウエイトレスが二人用のテーブルに案内し、既に二人用にセットされたナイフとフォークの一人分を片付けるのを見ると、自分は一人なんだと再認識して悲しくなる」とのことだった。「“Table for one”という響きだけでも寂しくなる」と言う友人もいた。

ちなみにリゾートホテルの“Room for one”にも友人達は否定的だった。「リゾートホテルはカップルでロマンチックに過ごす場所なのに、一人で行って何をするの?」と逆に質問された。

オーストラリアでは個人主義で自立した人が多いと思っていたのに、そんなにも周りの目を気にしたり、固定観念にとらわれているのか、と意外でもあり、ちょっとがっかりもした。“Table for one”や“Room for one”を能天気に楽しんでいた私は、どうやらこの国の常識からは少し外れていたようだ。一人で旅行に行く時には、シティホテルの狭い一室で、コンビニで買ってきたカップ麺でも食べて、シングルでいる寂しさを噛み締め、「次に旅行に来る時にはカップルで来るぞ~!」と拳を振り上げるのが、この国でシングルとして生きる者の常道なのだろうか。

いや、そうではない。“Table for one”が受け入れらる場合だってある。十数年前、メルボルンで学生をしていた時のこと、バイト先の日本食レストランに、中年のオージー女性が一か月に一度くらいの割合で一人で食事に来ていた。そのレストランは値段も格式も高いお店で、女性の一人客は珍しかった。彼女のお気に入りのテーブルは私の担当席にあったので、彼女が来るたびに私が給仕した。彼女は毎回メニューをゆっくりと見て、そして毎回同じ料理を注文をした。親しくなりたいという思いと、「あなたのオーダーを理解しています」と示したいがために、メニューを出す前に「いつもと同じですか?」と聞いたことが有ったが、少し眉をしかめて「メニューを見せてちょうだい」と言われた。その時もやはり同じ料理を注文した。食事と共にワインをグラスで二杯飲み、料理が来るまでの間は持参した本を読んでいた。お店のオーナーが挨拶に行って少し話をしていることも有ったが、それ以外は彼女の周りには彼女だけの静かな空気が漂っていた。いつもキッチリとした服装で、黒髪に大きな目のきれいな女性で、ビジネスウーマンであることは見て取れた。「一緒に食事をする人は沢山いるだろうけれど、敢えて自分の時間と空間を楽しみたいのだろう、カッコイーなぁ」と私は勝手に憧れていた。

その彼女が半年に一度くらいの割合で、男性と一緒に来店することが有った。毎回同じ男性だったので、旦那さんか恋人だったのだと思うが、彼と一緒の時の彼女は雰囲気が違っていた。いつもと同じお気に入りの席にはついたが、注文する物は全て彼の好みに合わせた物だった。彼と一緒の時には私にも親しげに声をかけてくれて、彼と一緒にいることが嬉しくて仕方がないというのがこちらにも伝わってきた。そんな彼女を「可愛らしいなぁ」とは思ったが、私は“Table for one”の時の近寄りがたい彼女のほうが好きだった。“Table for one”の彼女はレストランの中でも凛として目立っていたが、“Table for two”の彼女はレストランの他のお客さんと変わらなかった。

食事は一人でするよりも、気心のしれたパートナーや友達、家族とするほうが楽しいにきまっている。“Table for one”よりも“Table for two”のほうが絵になるし、この国では自然なことだという事もよくわかる。それでも私は、“Table for one”をネガティブにとらえたくないし、必要以上に周りの目も気にしたくない。パートナーがいる人もいない人も、必要に迫られて“Table for one”を経験することがあるだろう。そんな時は同伴者が居る時には目に入ってこない周りの景色や、同伴者が居れば会話に集中して見落としがちなサービスを静かに楽しめば良いと思う。パートナーがいる人であれば「あぁ、彼(彼女)にもこの景色見せてあげたいなぁ。この料理一緒に楽しめればよいのに」とパートナーへの愛情を再確認すればよい。「自分が自分自身の最高のカンパニー(同伴者)になれなければ、他の人にとっての良いカンパニーになれるわけがない」と誰かが言っていたが、その通りだと思う。自分一人の時間も、他の人と一緒の時と同じように楽しむ、“Table for one”で食事をする時は、自分自身が自分の愉快なカンパニーになればよいのだ。

というわけで、懲りない私は次の旅行でも、ホテルの部屋で一人カップ麺をすすることはせず、カップルだらけのレストランに入っていって“Table for one, please.”と言っていることだろう。こんなことだから “Table for two”側になかなか行けないのかもしれない、と今更ながら気が付いた。パートナーを探しているシングルの皆さん、くれぐれも真似をしないでね。

カップルでトロピカルドリンクを楽しむ。素敵ですね(Port Douglas, QLD )

海を見ながら一人で地ビールにナシゴレン。悪くない(Bondi Beach, NSW)

ビーチの前のレストラン。一人でも、二人でもリゾート気分(Noosa, QLD)

ケアンズのヨットハーバーに隣接するレストランMYogo。日本からも多くの人が訪れる人気レストラン(Cairns, QLD)

オーストラリア国勢調査によると、2011年時点、婚姻登録をしている人は15歳以上の国民の47.7%。事実婚の人は10.4%。結婚していない人は41.9%。(Australia Bureau of Statics調べ)

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