セネガル通信

第38回 園芸店(その3)

ダカールのブラジル大使公邸の建物の中には、吹き抜けにして四方をガラスで囲った中庭状のスペースがある。大使に招かれてそこを訪れた時に、「これは、日本の庭を真似て作ってみたのだけれど、どうですか?」と感想を求められ、とても驚いた。
 と同時に、日本に駐在したことがあるわけではない大使が、“自慢の空間”として日本的な意匠を選んでくれたことに感激した。
 6畳くらいの“中庭”の白い地面には、規則的な直線や曲線が描かれ、隅には、白い花をつけた背の高いひょろひょろとしたサボテンが植わっている。
 「とても素敵! 雰囲気がよく出ていますね。ところでこの白い貝殻、リュフィスクの海岸で買っていらしたの?」と言うと、大使はにこっとウィンクしながら頷いた。
なんだか、二人で同じ秘密を共有したような気分。

さて、我が日本公邸の“日本庭園”は……。

普段あまり誰も通らない、裏庭通用門付近。木にしても雑草にしても、2週間も放っておけばすぐにこんなふうに生長してしまう。

「玄関先を美しく」という考えは万国共通だと思うが、植物の生長が著しい国にあっては、案外これが難しい。
 公邸の車寄せの手前、まさに玄関先と言われる所は、白い貝殻を敷いたということがかろうじて見て取れたが、大部分が自由奔放に伸びた笹の葉で覆われており、公邸スタッフはいつもその枯れ葉掃除に追われていた。何しろ、竹の成長は速いのだ。
 水やりが大好きな――つまり、ちょっぴり怠け者の――庭師にとっては、細かい剪定作業とか地道な草取りなどはつい後回しになってしまう仕事である。結果、玄関先は日本的イメージには程遠い、ただの緑の塊という景色が常態化していた。

車寄せの手前。緑に隠れていた立派な石二つ

石の一つは、その後、ママンの指定席に

ある日、私は、公邸スタッフ全員に日本の竹林やお寺の門前などの整えられた竹の写真を見せながら、言った。
 「玄関先をいつもきれいに保つために、竹を少し減らしましょう。そもそも、竹はこんなふうに美しい節を見せてこそ本望というものよ」

スタッフに見せた写真の一枚(東京の住宅地の竹)

彼らがマダムの言うことをどこまで理解したかは別として、とにかく命令とあれば実行しなければならない。
 早速、翌日玄関横の竹の整理が始まった。笹をバサバサと刈り込み、からまるザクロやランタナやテコマの枝を整理したら、なんと、とても立派な石が二つも現れた。地面には白い貝殻が敷きつめられていた。
 やっぱり、公邸が建てられた当初は、日本らしい意匠で玄関周りを整えたに違いない!

しかし、まるで朽ちたように(でも、地下茎は朽ちていないから、竹の子は次から次から出てきてしまう)白くなってしまったみすぼらしい、でも強情そうな切り口がいくつもいくつも残されて突っ立っているのを見た時、私は愕然とした。なんだか腰が抜けてしまいそうだった。
(あぁ~、せっかくの玄関が~~)
 竹やザクロを刈り込み、白い貝殻を補充し、一仕事終えたとにこにこしている庭師たちを前に、私はさらに付け加えた。
「根っこを半分減らしてください。切り株がこんな風に残っているのはみっともないから」

根っこの始末には、いつもの助っ人が呼び出されました。そして掘りおこしたら竹の周辺からも“漬物石”がごろごろ。

白い貝殻を買いに、大使館の運転手さんたちは何回海岸の村にでかけただろう。
 玄関先が整ったら次は門扉の周辺。次は隣家との境の塀の近くの植え込み。次は裏木戸の辺り。次は……

炎天下の草取りは大変だし、庭はそれなりに広いのだし、メンテナンスということを考えると、まさに白い貝殻は一挙両得の素材だった。
 一旦、花壇を整理し始めると、おそらく20年前にはここにもあちらにも、と白い貝殻が置かれていた名残に気づいた。
 南国の、すぐにジャングルと化す花壇よりは、やっぱり“枯山水”である。

そして、“枯山水”には、石とあっさりとした常緑の植物が似つかわしい。マダム・ニャイの花畑の横に自生していたパピルスの株も貰って来た。
 公邸の庭の隅っことか“ジャングル”のような植え込みの陰などに転がっていた石(まるで漬物石!)も、20個ほど見つけたから、その後はせっせと、白い貝殻部分を増やすことになった。

庭の隅っこ。“花壇”を作る予定だったが、草取りが間に合わないと思い、ここも貝殻を敷きつめた。

貝殻工場での最初の大量購入の時は、海岸村の近くの園芸店にトラックを手配してもらい、公邸まで運びこんでもらったが――村の女性たちはただ売るだけで、輸送の手段は持っていない――、その運送賃が貝殻代金と同じくらい高くつくので、2回目からは自分たちで運ぶことにした。

こうやって、少しずつ、公邸の庭が“それらしく”美しくなっていき、韓国大使や中国大使 ―― こちらの公邸には、それこそ、とっても珍しい立て筋の入った太い竹が何本も植えられているのだけれど! ―― 始め、各国の友人たちが、「日本の庭って素敵ですね」とほめてくれ、中には玄関の横でわざわざ写真を撮る人たちも出てきて、公邸スタッフはとても嬉しそうだった。もちろん、私も鼻が高い。

パピルスとサンセベリアはもちろん南国の植物だけど、“白いさざれ”と“漬物石”で、どうにか日本風に見えなくもない!?

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