Did you know that?

79. 「LGBT」の人たちと共に生きる

トランプ大統領が、先日「“Transgender—性同一性”という性はない。性とは、遺伝子上生まれた時の男女の性のみがあり、そのほかの性は存在しない。このことを法律上で明確にする」というようなことを発表した。
「なるほどなるほど・・・、確かに「生」を受けてこの世の中に生まれてくる人間、動物のほとんど(全て?)は男か女、オスかメスとして生まれてくる。両性を持って、あるいは性なしで生まれてくる人間はいないということらしい、間違いないかな〜」と思った。

しかし、現在、なぜ「Transgender」であるという人が世界中に数多くいるのだろうか。この言葉が市民権を持つようになってきたのだろうか。
この世に「生」を受け成長するにつれ、自分の「性」に違和感、疑問を持つ人がいる。つまり、人類の長い歴史の中にもきっといたであろう人たちが、自分たちの「性的指向」を主張し始めた、主張できるような世の中になったからなのだろう。このトランプ政権時代に、これからアメリカでは「Transgender」と言う存在は法律上なくなるのだろうか。もしトランプ大統領のこの法案が通れば、オバマ大統領時代に作られた「Transgender」を守る法律は破棄されることになる。

さて、日本では、衆議院議員の杉田水脈氏が「LGBT(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender)の人たちは『生産性がない』ので、彼らへ行政支援することに疑問を持つ」というような内容を雑誌へ寄稿したことが問題となった。その後も「LGBT問題」は完全には消えていないようだ。彼女は衆議院議員2期目にもなる人だ、自分の発言の内容、それも文章になる場合は十分に単語を確認し文章を吟味し発表されていると思う。杉田議員は「子供産まない、産めない」ということを「生産性がない」という言葉で発言している。

この議員の発言騒動よって私は、「LGBT」や「生産性」という言葉の意味を改めて考えさせられた。

私は九州の田舎で生まれ育ち、大学を卒業し社会人となっても、人間に男女以外の「性」が存在するなど考えたこともなかった。もちろん「おかま」という単語は聞いたことがあったが、身近にそのような人がいなかったので、真剣にそれが社会的に存在する他の性だとは思ってもみなかった・・・。

ところが、である。30数年間前にアメリカ人男性と結婚してアメリカに住み始めて驚いた。まず夫の妹がレズビアン(lesbian)であったのだ。次に夫の父、つまり義父の再婚相手の息子がゲイ(gay)であった。夫の義理の弟に当たる。私には青天の霹靂で、「どうしてそうなっちゃったの?」というのが大きな疑問だった。義妹にはその当時女性のパートナーがいたが、とても素敵な女性だった。

義父の再婚相手の息子は、夫にとって英語では「Step brother」なのだが、私にとっては「Step brother in law」となる。日本語では「義弟」という言葉があるが、辞書には「義理の弟、夫か妻の弟、妹の夫」と書いてある。このような関係を日本語で正式に何と言うのだろうか、まとめて「義弟」だろうか。複雑だ・・・。彼をダニエルとしよう。彼は長い間、ゲイの街サンフランシスコに住んでいた。男性の恋人もいた。

私の「LGBT」との生活はこのように身近なところから始まり、その後30年余り、私は「LGBT」、と言うより「LGT」の人たちと深く浅く関わりながら生活してきた。日本では、まだ自分の「性的指向」を公にして普通に生活している人たちは少ないかもしれない。

日本では、美輪明宏さん、マツコデラックスさん、IKKOさんなど、芸能界ばかりでなく華道や手芸などの世界で活躍する「LGBT」の有名人が目立つ。この人たちを「オネエタレント」と呼ぶらしい。しかし、彼らを性的指向によって区別するというイメージは薄いように思う。

東京に住む息子曰く、この有名人たちの「オネエ」があまりにもインパクトが強いので、日本では普通?の「LGBT」の人たちの肩身が逆に狭くなっているという現状があるのではないか。マツコデラックスやIKKOは、例えば、日本の地方に住む人たちにとって、「LGBT」=「派手な格好であのように喋り倒す人たち」というイメージになってしまっている。そのため、地方や田舎では「LGBT」の人たちは、自分たちの性的指向を公言しにくくなっているのではないだろうか」と。

マサチューセッツ州プロビンスタウンで見かけた「ゲイ」の男性

アメリカでは「L-lesbian」は同性愛者、「G-gay」も同性愛者(現在はレズビアンもゲイに含まれることも多い)、「B-bisexual」は両性愛者、「T-transgender」は性同一性と区別がはっきりしていて、「オカマ」というような言い方はない。「Heterosexual」異性愛者は誰も何も言わない。現在「LGBT」の人たちは個人の「性的指向」によって自分を主張し、それを公にすることを恥ずかしいとは思っていない。
 アメリカでは、「Queer—キュー」という言葉が、20年ほど前からゲイの人たちを蔑視する言葉として使われてきたが、近年、ゲイの人たちが自分たちを「Queer」であると誇りを持って主張している。そして「LGBT」は現在「LGBTQ」と表記されることも多い。
 しかし、アメリカは大きく、様々な人が混在している。この国でさえ、田舎やRed State(レッド・ステイトー共和党支持者が多い州)、つまりトランプのように「LGBT」を認めたくない人が多くいる州では、「LGBT」の人たちは、今だに生きにくさを感じているかもしれない。

1979年にLGBTの象徴として作られた「LGBTQ]の旗。 色は初めは8色だったが、6色に減らされた。色の意味は:
life 人生(赤),
healing 癒し(オレンジ),
sunlight 日光(黄色),
nature 自然(緑),
harmony/peace 調和と平和(青),
spirit-精神(紫)

随分前のことになるが、息子と一緒にある大学を訪れたときのことだ。私はそこで受付をしている男性がとてもハンサムで良い印象だったので、「あの男性は素敵だね。優しそうだし」といった。息子はすぐに、「お母さん、彼は多分ゲイだよ。女性には興味がないと思うよ。お母さんには分からないの?」。別に私のようなおばさんに興味を持ってもらうなど考えもしなかったが、息子は、「ポートランドというリベラルな街、環境で育った僕たちには、ゲイの男性は、彼らの言葉遣いや喋り方でたいてい区別がつくんだよ」と言った。息子は続けた。「僕たちの高校でも『自分がゲイである』とカミングアウトする子、結構いたからね」
 私、「ふ〜〜ん、英語にもゲイ特有の言葉遣いや話し方があるのか・・・、お母さんには、そんなの全部『普通の英語』にしか聞こえない!」

さて、レズビアンである夫の妹は、大学で教鞭をとる地質学者である。特に海洋地質を調べる時は、色々な国の学者と協力し船に乗り世界の海を調査してきた。ある時、「厚い氷を切り取って、その下に潜って調べることもある」と聞いた時には「ヒェ〜〜!私は海も氷も寒いのはダメだ〜〜」と彼女の凄さを思った。昨年、彼女は全米の科学部門で大きな賞をとり表彰されている。

夫の大学の同僚だった言語学者もレズビアンを公言していた。40年来の女性パートナー(数年前に結婚した)と一緒に暮らしている。彼女の功績は、大学で30余年日本語を数千人に教えてきたばかりでなく、外国人のための日本語を学ぶ教科書を作った。そして何よりも日本人やアメリカ人の言語学大学院生を教え、多くの日本語教師や教授を全米に送り込んできたことだろう。

ゲイであるダニエルは、サンフランシスコにある「Children’s Cancer Hospital小児がん病院」のレントゲン技師として長い間働いていた。どれほど多くの子供たちの癌を見てきただろう。
 もう20年以上前のことになるが、私の甥が日本ではほとんど例のない小児癌にかかり、助かる術もないと途方に暮れていた。その報告を受けた時、夫と私はすぐに医科学者である夫の父に連絡した。長い間NIH(National Institute of Health)という世界でも最高の医学研究所に勤めていた義父に相談すれば、何か手がかりが得られるかもしれないと思ったからだ。義父はすぐに義母に相談し、ダニエルに連絡を入れた。ダニエルほど小児癌のレントゲンを撮り続けている人を他には知らなかったからだ。

ダニエルは幸いにも「甥と同じ症例をレントゲン撮影したことがある」とすぐに返事をくれた。「ダニエルがレントゲンを撮った子供は助かった!」とも。その時の喜びは、今でもふつふつと湧き上がるほどだった。彼は、甥の症例を自分の担当医に相談した。その担当医は、すぐに日本の甥が入院している甥の担当医に連絡を取り、その治療方法を教えた。日本の担当医は、ある程度治療の目処はついていたが確信を得なかったらしい、しかし、このサンフランシスコの医師の治療方法と同じだったことで自信を持ち治療に当たった。甥は助かった!

20年後の昨年、甥は素晴らしい女性と結婚し、長男が生まれた。
しかし、ダニエルは長い間エイズに苦しみ、昨年5月他界した。甥の長男誕生を報告し、感謝の言葉を伝えられなかったのが残念である。

オレゴン州は、「LGBTQ」を公言する政治家も多い。アメリカで初めて「Transgender」をカミングアウトしたのもオレゴン州の小さな市の市長である。ちょうどオバマ大統領が誕生した2008年11月だ。長い間男性政治家として活躍し、Silverton, Oregonの市長を1990年代に2期務めた。しかし、この同じ市で2008年に再び市長に選出されたとき、彼は「おっさん市長からおばさん市長」になるとカミングアウトした。それは大きな話題になった。
 彼は、「中年になって、仲間の男たちはオートバイを買ってぶっ飛ばしたり、若い愛人を作ったりしたが、俺が欲しかったものは一つだけだった。『おっぱい』だったんだ」という名言を残した。

Stu Rasmussen:
 https://www.youtube.com/watch?v=0OF-JCCU1aA
 https://en.wikipedia.org/wiki/Stu_Rasmussen

  オレゴン州知事Kate Brown

現オレゴン州知事は、2年ほど前に自分が「Bisexual」であると知事在任中公表した。私でさえも「へ〜、そうなんだ」とぐらいにしか思わなかった。
リベラルの州、つまり民主党支持者の多いこの州では、「LGBTQ」がどうだこうだというようなことは話題にも登らない。ただ、反トランプ政権、つまり「LGBTQ」を認めようとしない政権に対する嫌悪感は半端ない。州知事のサポーターも多い。知事としての仕事をしっかりしてくれれば、個人の性的指向など問題がないのである。

夫の大学で「Transgender」で苦しんでいる女子学生がいる。大学を卒業しても長い間夫の授業を受け続けているため、我が家にもよく夕食を食べに来る、泊まっていくこともある。彼女をRとしよう。今年9月末、カナダのUniversity of Victoriaから、夫の講演に伴い狂言の公演の依頼があった。総勢7名で出かけた。Rは、夫の歌舞伎の公演では大きな役割を果たし、今年の狂言でも素晴らしい演技を披露した。この狂言のグループは、夏に南オレゴン、9月にはミズーリー州のSt. Louis、そしてVictoriaにも招聘された。

2017年歌舞伎「傀儡師ーかいらいし(人形遣い)』を演じ踊るR、2018年狂言「神鳴ーかみなり」を演じるR

彼女の今年の狂言での役割は、最も大切であった。Victoriaに4泊5日、車とフェリーで出かけたため、一緒に過ごす時間が十分にあった。Rと私は、時間が空いた午後の数時間をVictoriaの街中に出かけた。2人で面白い店を探そうと歩き回り、アイスクリームを食べながら、楽しいひと時を過ごした。

指輪、頭の刺青、ネックレス(男性、女性、「Transgender」のマーク)

その時、彼女がどれほど自分の性的指向で苦しんでいるかを話してくれた。彼女はいわゆる「Transgender-性同一障害」で悩んでいるわけだ。それは身近にいる夫や私にも近年十分に伝わっていたが、直接詳しく話を聞くのは初めてだった。彼女は、苦しみを緩和するために、今年一大決心をして、自分が長い間お守りのようにつけている指輪の模様を後頭部に刺青として入れた。また首に下げているネックレスには「Transgender」が表示されている。

University of Victoria構内のトイレ写真

University of Victoria構内のトイレを見てみよう。私は、初めこのサインを見ても全く何だかわからなかった。トイレのドアにこのような便器の絵柄を見たことがなかったからだ。「Women/Men」も「女性/男性」のサインもないのだ。「WASHROOM」とだけ書いて便器のサインがあるだけだ。アメリカでは、子供や外国人にもわかるように「RESTROOM」と男女の絵柄のサインが多い。

私は初め意味がわからなかったので、手前のトイレに入った。誰もいなかったが、男性用小便器が手前にたくさん並んでいたので、慌てて飛び出した。次のドアを見たら、ハンディキャップ障害者サインがあったのでこれも違うと思った。3番目にやっと「座る便器」だけのサインだけがあったので、これだろうと思って入った。

夫の大学(Portland State University)にある「all Gender—全ての性の人のため」のトイレ

この大学では、このトイレが示すように、大学構内全てではなくとも、自分の性的指向でトイレを選べるようになっている。
なんと画期的なことか!!

「人」という漢字は面白い。漢民族というのはすごい民族だったのだとこの文字を見るだけで思う。コンピューター文字では人が平等に支えあっているように見えるが、実際に書いてみると下にいる人が倒れそうな人を支えているように、あるいは小さい人が大きい人を支えているように私には見える。つまり小さい人がいなければ大きい人は倒れてしまうのである。そして人間は人の間に生きている。

夫に、日本には、「生産性」という言葉を「子供を産まない/産めない」と表現する国会議員がいると言うと、夫は笑いながら、「僕も子供は産めないよ。男は誰も産めない。精子は提供できるけれどね」と言った。「生産」と言うことを考えると、乳幼児を含む子供や一般的老人、病人、職がない人などの弱者は、社会の中での「生産できない」人の範疇に入ることになるのではないか。
 しかし、若い人もいずれは老人になり、健康な人もいつ病気になるかわからない。職を失うことだってありうる。人は人と共に生き、社会はその人たちの支えで成り立っている。

人間社会のあり様を考えれば、杉田水脈議員に「LGBTQ」と「生産性」を問題にするような発言はできないのではないだろうか。


参照:66. 67. 全米同性結婚合法化に思う--前編後編

このサイトは翻訳学校サン・フレア アカデミーの運営です。

PAGETOP