パリ狂日本へ帰る

第3回 野苺(その2)

空港から街へ向かうために乗った電車は、《アーランダ・エクスプレス》と名付けられた高速列車で、乗客はあまり多くなくガランとしていた。
 新しくてきれいな車体、座り心地の良い大ぶりの椅子は、英国に住んでいた時にたまに利用した、空港とロンドン市内のパディントン駅を繋ぐ《ヒースロー・エクスプレス》に何となく似ている。だいたい、ネーミングの発想は全く同じではないか!(ちなみに、《シャルルドゴール・エクスプレス》は存在しません)
 そういえば、料金がとっても高いのも、利用者が決して多くないのも――空港からは安価なバスで小一時間かけてストックホルムに入るのが一般的らしい――およそ20分ノンストップで突っ走るのも、そっくり。

アーランダ・エクスプレスの車窓から

でも、しばらくするうちに、ヒースローとは外の景色がちょっぴり違うのに気づいた。
 田園風景は何となく似ているのだが、少し遠くに見える林の色は、ロンドンやパリ近郊の明るい黄緑色ではなくて、深い緑だ。目を凝らせば、木々の形も少しツンツンとした背高のっぽだということが分かった。
 針葉樹林が、夏の日をたっぷり浴びて黒光りしている。
 スコットランドにもこんな林があったっけ……などと思いを巡らせているうちに、列車はいつの間にかストックホルムに近づいたらしい。濃い灰色のむき出しの岩盤の上に、レンガの建物が現れてきた。
 レンガ造りは、さほど珍しくない。ロンドンの街にもたくさんある。でも、岩山を切り出したような街の造りの、質実剛健という形容詞がぴったりくるようなその佇まいは、ストックホルムに対して何となくもっとのどかな街を想像していた私にはとても新鮮に映った。
 そして、岩盤は街に入ってからも所々に見え隠れしていた。

ストックホルム市内

駅はまがりなりにも“中央駅”である。ホテルはそれに隣接する、“大手”なのだけれど……。
 列車を降りて、一本しかない通路をなんとなく歩いたらいつの間にかホテルについてしまったらしい。不安になるくらい“何もない”“誰もいない”駅前広場が広がっていた。
 スウェーデン語辞書に“雑踏”という単語はあるのだろうか!?
 夜の8時を過ぎていたとは言え、こんなふうに数えるほどの人としかすれ違わずに首都の真ん中にやって来れるとは!これは私にとっては新しい不思議な体験。「人口密度」という文字が頭の中をくるくると回っていた。

こうしてホテルにチェックイン、無事に日本からの皆さまにも会えた。
 ヘルシンキ経由の長旅で時差も大きい皆さまは、とても疲れていらしたのではないかと思ったが、「夜9時なのに、まだこんなに明るいのねぇ」と、白夜のストックホルムに興奮気味。 「夏の夜がなかなか暮れない」のはちっとも珍しくない私だったけれど、皆さまと一緒になるとなんだかすごく嬉しい楽しい気分が盛り上がり……
 すでに飛行機内で簡単な夕食を食べていたにもかかわらず、近くのカフェでの“夕食会”にくっついて行くことになった。

誰もいない

時はワールドカップサッカーの真っ最中である。スポーツカフェは大きな画面で試合の模様を映し出していた。でも店内は比較的静かで、声援も拍手もとても上品である。
 何より、店内の客席も空席がたくさんあるし、もちろん、立ち見の客など全くいない。
 ロンドンのパブの賑わい、ことにサッカーの試合の時の英国の人々の騒ぎっぷりに慣れていた私としては、なんだか拍子抜けしてしまうのだった。

やっぱり、ぜーんぜん違う!
 スウェーデン人はあまりサッカーに興味を持っていないのだろうか? いや、そんなことはないと思う。
 とすると、単にお行儀のいい国民性なのか、それとも、数日前の夏至のお祭りで力を全部使い果たしてしまったのか……
 多分、後者、だと思います。(つづく)

午後8時半の青空

午後10時半を回ってもまだ薄ら明るい

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