コーヒーブレイクde翻訳
出版翻訳や、翻訳道場を始めとする翻訳指導など、日々の業務で感じたことをつづっています。
翻訳理論と実践(17/12/15)
注文していた本が届きました。
『声、意味ではなく――わたしの翻訳論』(和田忠彦著、平凡社 2004年)

イタリア文学の研究者による翻訳論です。これまでいろいろな翻訳に関するエッセーや指南書を読んできましたが、そのすべてが英日翻訳の翻訳者によるもの。このブログでも↓のページで紹介しています。
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届いた『声、…』の本、パラパラと眺めてみると、難解そうな言葉が目につきます。今まで読んできた指南書やエッセーとはどうやら趣が異なりそう。心して読まないと、と思っています。

今回なぜイタリア文学の研究者の翻訳論を手にしたかというと、11月29日に母校外語大で開かれたシンポジウムで話を聞いたからでした。テーマは「翻訳という創造空間」。翻訳理論と翻訳の実践の話でした。
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登壇者はアメリカ文学の柴田元幸氏、フランス文学の野崎歓氏、ドイツ文学の松永美穂氏、イタリア文学の和田忠彦氏の四先生方、コメンテーターはロシア文学の沼野恭子氏、司会がドイツ文学の山口裕之氏という、豪華なメンバーでした。そう、英語だけの世界ではなかったのです。先生方のお話に出てきた翻訳理論に関する本でメモしたのが、『翻訳研究のキーワード』(研究社)と『声、意味ではなく――わたしの翻訳論』の2冊で、そのうちの『声、…』は和田先生ご本人の著書なので、読んでみようと思ったわけです。

さて、講義の話。先生方は研究者・教育者なので、ベンヤミンやエミリー・アプターの翻訳理論が引用されることが多く、また哲学的考察もあって、なかなかタフで噛み応えのある講義でした。

「翻訳の結果生まれた『母語』はふだんの自然な『母語』とは異なる」「(翻訳は)母語の境界線を広げる」「翻訳の結果はつねに不完全だけれど、(散文に関しては)近似値を積み上げれば完全に近づく」「翻訳は模倣。模倣が創造に通ずる」「言語が翻訳者を動かす」「翻訳の多様性」「異質化翻訳」「同化翻訳」……。メモしたことをいくつか並べてみましたが、部分的に抜き出しただけでは何のことかピンとこないかもしれません。でも先生方のお話の文脈の中で聞いていると、普段の翻訳作業のあの部分のことを言っているのか、翻訳家の○○氏が言っていたことと似ている、などと気づきます。難しいことはわからないけれど、普段の翻訳作業の中で感じていることは、そういう理論で説明されるのか、と実感させられたのでした。理論と実践は決して別物ではない、とも。

最後に、わたしの心をつかんだ二つの発言を紹介します。

「ひとつ翻訳が終わって、次に訳すものが決まっていないと、(気持ちの上で)秋風が吹く」(野崎先生)
「翻訳はbottom upの仕事、翻訳理論はtop down」(柴田先生)

だってわたし、現場の翻訳者ですから。

訳者の方と偶然知り合って、いただきました。字幕翻訳や漫画の翻訳についても言及されています。

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