コーヒーブレイクde翻訳
出版翻訳や、翻訳道場を始めとする翻訳指導など、日々の業務で感じたことをつづっています。
人称代名詞(18/09/18)
勉強会で添削を受けて、人称代名詞、特に一人称の扱いを指摘されたことがありました。試しに講師の指示通りに改めてみたら、驚くほど訳文がリズミカルになるではありませんか!

こちらの添削講座を受ける方たちへは、ここはこうした方がいいでしょう、この訳語を考え直してみましょう、などと個別にコメントを入れていますが、気になりながら十分にコメントできていないのが、人称代名詞です。誤訳が多いわけではないのに、人称代名詞のせいで訳文がモタモタする、硬くなる、もっと言えば、英文和訳になっている――そういう訳文が意外に多いのです。

そこで人称代名詞を適正に使って日本語らしい訳文に近づける方法を考えてみようと思います。以下の例を参考にしてみてください。

(Max ShulmanのLove is a Fallacyより)
「ぼく」が妻にしたい女性の条件(美人、上品、知性)を挙げたあと、「彼女」を品定めする箇所を取り上げます(1950年代の作品。今では顰蹙ものですね。教材として割り切って読んでください<(_ _)>)

① She was gracious. … At table her manners were exquisite. I had seen her at the campus café eating the specialty of the house --- a sandwich that contained scraps of pot roast, gravy, chopped nuts, and a dipper of sauerkraut --- without even getting her fingers moist.
――彼女には品がある。… 食事時の彼女の行儀の良さといったら、絶品だ。ぼくは学食で彼女が特製のサンドイッチ…を食べるところを見たことがあるのだが、彼女は指を汚すこともなかった。――

原文は一人称のIで語る文章です。したがって、視点はI、「ぼく」。「ぼく」になったつもりで語ってみましょう。そうすると「ぼく」が不要になると思いませんか? それから冒頭で「彼女」のことだと言っているので、あとはわざわざ「彼女」を入れなくても、話は通じます。

――彼女には品がある。… 食事時の行儀の良さといったら、絶品だ。学食で特製のサンドイッチを食べるところを見たことがあるのだが、指を汚すこともなかった。――

② She was not intelligent. In fact, she veered in the opposite direction. But I believed that under my guidance she would smarten up.
――彼女はあまり頭がよくない。むしろ彼女はまったく逆をいっている。でもぼくが導けば、彼女は賢くなるだろうと、ぼくは思った。――

ここで注目したいのは、第2文の主語、sheです。第1文の主語と同じですね。同じということは、話が続いているということ。同じ「彼女」を話題にしているので、わざわざ「彼女」を繰り返す必要はありません。第3文では、①と同様に視点がIなので、主語の「ぼく」は不要。my guidanceのmyは所有格ですが、主格で訳して「ぼくが導けば」と条件文のようにすると日本語らしくなります。この「ぼくが」は「導く」主体を強調するので、省かない方が読者には親切かもしれません。意味が通らなくなるような省略は避けます。

――彼女はあまり頭がよくない。むしろまったく逆だ。でもぼくが導けば、賢くなると思った。

いかがでしょうか。添削で「私」「彼」「彼女」が多すぎます、とチェックされたら、一度試してみてください。そうして何度か試してみて、自分のリズムを探ってみてください。

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