コーヒーブレイクde翻訳
出版翻訳や、翻訳道場を始めとする翻訳指導など、日々の業務で感じたことをつづっています。
日本翻訳大賞がきっかけで(15/05/15)
昨年暮れに設立された「日本翻訳大賞」(わたしも少額ながらクラウドファンディングに参加しました)。4月に大賞と読者賞が決まり、新聞各紙で報じられました。紀伊国屋書店のウェブサイトでも、大きく詳しく取り上げています。

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第1回翻訳大賞で選ばれた本の中に、気になる本がありました。読者賞の『ストーナー』(東江一紀訳、作品社)です。半世紀前に刊行された本で、じわじわと評価されてきたとのこと。内容に派手な展開はなく、地味に静かに一人の男の人生を綴っています。フィクションでもノンフィクションでも、わたしは人生を綴る本が好きです。こんなふうに生きなさい、と「教える」のではなく、こんな人もいた、こんな生き方もある、と「感じさせ」てくれるからです。この本もそうらしい。

もう一つ気になった理由は、東江先生の最後の作品だということ。東江先生にお目にかかったことはありませんが、素晴らしい翻訳者であるということを、多くの翻訳仲間から聞いていました。訳書の数は多すぎて、どれを読んだらいいかわからないなあ、と思っているうちに亡くなって、大きなチャンスを失った気がしていました。そしたら最後の作品が第1回翻訳大賞の読者賞として目の前に現れたのですから、これは啓示と言わずして何と言おう(?!)

というわけで読み始めています。翻訳家の越前敏弥さんがご自身のブログ「翻訳百景」でお書きになっているように、東江先生の訳は「わかりやすくこなれていることなどは言わずもがなのこととし、そのうえで原文の声を注意深く聞きながら、あまりにも豊かで、それでいてあまりにも的確な表現を積み重ねていく、圧倒的なことばの力を感じさせ」ます。作品自体の色や香りを訳者がそのまま伝えているのです。わたしにとって、久々のヒット作品と言っていいでしょう。

朝日新聞の5月12日付夕刊に載った日本翻訳大賞の記事の隣では、早川書房の早川社長が翻訳小説の出版について語っていました。いわく「少部数でも長く読まれる作品を出していきたい。一冊でも多く“古典”にしたい、というのが私たちの哲学です」。『ストーナー』はそういう古典になるかもしれません。

授賞式には一般読者も出席できたそうです。それも画期的だと思いませんか?

  

カズオ・イシグロ氏来日に合わせた講演会があるそうです。興味津々…。

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