コーヒーブレイクde翻訳
出版翻訳や、翻訳道場を始めとする翻訳指導など、日々の業務で感じたことをつづっています。
新訳に挑戦(15/08/05)

新訳に挑戦



7月13日、かなり分厚い神話関連の本の仕事をいただきました(書名、著者名、出版社名など、詳細は後日)。その道では有名な本で、すでに学者さんたちが翻訳を出しています。今回は一般読者が読みやすいように、新訳を出そうという企画。もろもろの事情で書店に並ぶのを11月に設定したそうです! 専門家の監修や何回かの校正を考えると、9月末には初稿を出さなければなりません。3人での分割作業になりますが、内容が濃い分、作業にはかなりの時間がかかりそうです。

さて、既訳の本は専門家の学者さんたちが訳しているので、内容的にはおそらく大きな間違いはないと思うのですが、これが難解な日本語で書かれているので、1ページを読むのにかなり苦労します。たとえば:

The … appearance of the carrier of the power of destiny

既訳は「運命の力の搬送者の出現」となっています。これでもわからなくもありませんが、字面に「の」が重なって読みにくいし、すんなり理解できるとは言えない。「一般読者が読みやすいように」という条件を満たすには、工夫が必要です。

そこで注目したいのは、ofにはいろいろな意味がある、ということ。辞書や文法書を開けば、いくつも意味が出ていますね。手元の『英文法解説』(江川泰一郎、金子書房)によれば、分離、出所・紀元、除去・奪取、部分、材料、所属があり、さらに被修飾語との関係で所有、主格、目的格、同格があります。英和辞典でも調べてみてください。「~の」と訳すだけではダメなんです。例文の場合、一つ目は所有格で「carrierが持つappearance」の意、二つ目は目的格で「carrierがthe powerを持っている、またはthe powerを運ぶ人」の意、そして三つ目は所有格で「destinyが持つpower」を意味します。そこでわたしは「運命の不思議な力を持つ使者の、…姿」と訳しました。もちろん前後関係からも推察するわけですが、このように文法的な説明をしながら考えると、「~の」だけではあいまいな意味が明確になってきて、読み手に親切な訳文になります。

…とまあ、こんな具合で、しばらく骨のある本と格闘します。キツイ毎日になりますが、できれば、気づいたことを随時書いていきたいと思います。

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