コーヒーブレイクde翻訳
出版翻訳や、翻訳道場を始めとする翻訳指導など、日々の業務で感じたことをつづっています。
新訳に挑戦 その2(15/08/23)

新訳に挑戦 その2



散々苦しめられた猛暑が、どうやら終わったようで、ここしばらく、おや、秋かな、と思わせるような風も感じられるようになりました。まあ、経験的に、これから9月いっぱい、うんざりするような暑さが続くことは覚悟しなければなりませんね。

さて、前回の更新から3週間、すっかり間が空いてしまいました。例の新訳に、かけられるだけの時間をかけているため、他のことは後回しになっていました。週7日、1日6時間、新訳に没頭しています。

前回、ofを連ねた句をどのように訳したら読みやすくわかりやすい訳文になるか、という例を挙げました。今回は、詩または韻文の話。次の詩を読んでみてください。

Mishe-Nahma, King of Fishes,
In his wrath he darted upward,
Flashing leaped into the sunshine,
Opened his great jaws and swallowed
Both canoe and Hiawatha.

アメリカインディアンのある部族に伝わる伝説ですが、これの既訳が次のようになっています:

魚たちの王たる「ミッシュ=ナーマ」は
かれの怒りを上へ向かって吹きあげた
飛沫が陽光を遮り
両の顎を開いて
カヌーとハイアワサをともども呑みこんでしまった。

日本語だけ読めば、なんかヘン、と思いつつも、わからなくもありません。ところが原文と並べると、何がヘンなのか、気がつくでしょう。

1行目は、魚の王さまの名前をバン!と提示しているだけで、問題はありません。2行目はhe darted upward in his wrathと考えればいいですね。in his wrathは状態を表す副詞句。dartは自動詞、「ダァーッと走る、急ぐ」の意。「怒って、上の方向に猛スピードで泳いで行った」ことを表します。3行目は2行目の主語heをそのまま引き継いで(2行目がカンマで区切られているだけなので)、he leaped into the sunshineがメインの文で、flashingは分詞構文。as he was flashing,「flashしながら」と考えます。4行目も2行目の主語heを引き継いで、he opened his great jaws and he swallowedとなり、5行目のboth canoe and Hiawathaがswallowedの目的語になります。このように構文を確認しながら読むと、次のような訳になりませんか?

魚の王、ミッシュ‐ナーマは、
怒りに身を任せ、水面に向かって急上昇、
日の光の中へ、しぶきをあげて躍り出て、
大きな口を開けて呑み込んだ。それが
カヌーとハイアワサ。

魚の話であることを加味して、「水面に向かって…躍り出た」という工夫をしています。またできるだけ1行1行が対応するようにして、結果としてswallowedの目的語が原文通り5行目に来るようにも考えました。1行目から先に進むにつれて、視点が変わっていくのがわかりますね。海の底から、水面へ、そして宙でパクッと! 動きのある詩です。

わたしは詩が好きではなく、大学の授業で英詩が出てきたときには苦労しました。ただ当時の先生の教えは、今も頭に残っています。それは、詩とはいえ、英語の文法に則って書かれている、というもの。だからS+Vの形を見つけ出し、語法上、どれが目的語か、どれが副詞句かなどを見極めれば、ちゃんと読めるはずです。文法や語法を無視して、気分だけで訳すと、とんでもない誤訳になってしまいます。下手でも、正確に訳す方が、読者にとって親切だと思います。

この詩に限らず、ややこしくて長い文が多い本なのですが、構文解析をしながら読むと、なんだ、言っていることは簡単なことじゃないか、と気づくことがとても多いです。散文でも韻文でも、基本は文法と語法。忘れてはいけませんね。

*ハイアワサの叙事詩、こんな本がありました。ご参考までに。
こちらをクリック!

1993年に刊行された本だそうです。民話神話伝承の雰囲気が漂う表紙です。

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