コーヒーブレイクde翻訳
出版翻訳や、翻訳道場を始めとする翻訳指導など、日々の業務で感じたことをつづっています。
積読解消(16/10/09)
夏の間、細かい仕事が重なって、なんだかワチャワチャとした時間を過ごしていましたが、ここへきてようやく区切りがついて、きょうは何をしようかと考えるほどヒマになりました。そこで積読の在庫整理。

まず、とっつきやすいエンタメ系の本から。高校生ぐらいまでは世界文学全集的なクラシックな作品やホームズやルパンの冒険・ミステリー小説を好みましたが、大学生以降は文豪と呼ばれる日本人作家の作品ばかり読んでいました。そしてその後赤川次郎の作品に出合います。彼のデビュー作『幽霊列車』を手にして、本格的ミステリーでありながらコミカルな登場人物や表現に魅了されたわけです。同じような趣向の話に飽きて、ここしばらくご無沙汰でしたが、先日9月15日に新装版として発売された『華麗なる探偵たち 第九号棟の仲間たち』を本屋で見つけて買ってみました。久しぶりにエンタメとして大いに楽しみました。勢いで、1981年発売の『幽霊列車』(文春文庫)と1983年発売の『黒い森の記憶』(角川文庫)を本棚から引っ張り出して再読。活字が小さいのには閉口しましたが、やっぱり面白い。とくに『黒い森の記憶』はコミカルな要素を排除したシリアスなミステリーで、黒々とした森が登場人物を支配する闇を象徴するかのように常にそこにあって、読者にも鬱陶しく重く迫ってきます。エンタメ的な軽い筆致に飽きた読者にはおススメです。

次は、初めて読んだ恩田陸の『まひるの月を追いかけて』(文春文庫)。奈良の明日香村を舞台にした旅物語であり、登場人物の表層から心の奥へ視点が変化していく興味深い物語です。内容は普段の生活の延長のようなものですが、ミステリーっぽい味付けをしているので、ページを繰る手が止まりませんでした。この本を手に取ったそもそもの理由は、舞台が明日香村だったから。自転車で史跡巡りをしたことがあって、以来好きになった土地です。それだけの理由ですが、当たりました。

エンタメ系で頭をほぐしてから手にしたのが、母語はベンガル語、日常生活と作家活動で使う言語は英語、魅せられた言語がイタリア語というジュンパ・ラヒリのエッセー『べつの言葉で』(新潮社)。第三言語であるイタリア語で書かれたものを日本語に訳した作品で、複数の言語がひとりの文筆家の中で交錯する「事態」に興味を持ちました。イギリスが好き、彼の国に行きたい、と思っても、わたしには日本を離れて英語の世界で暮らすだけの度胸や能力はありません。でもラヒリは日常使う英語から離れてイタリア語で生きようとしています。イタリア語で作品を紡ぎます。母語がベンガル語であっても普段は英語を使わざるを得ない状況にあった生活歴が、言語の垣根を低くしているのでしょうか。ところでこの作品はほとんどが現在形で綴られています(もちろん、翻訳の日本語が)。最初、どうにも読みにくかったのですが、読み続けるうちにリズムを感じるようになりました。現在形なので、目の前でものごとが進む印象になりますね。それが心地いい、不思議なエッセーです。

今回はここまで。次はどんな本を在庫整理しましょうか。

赤川次郎と恩田陸の文庫本。1980年代に出版された赤川作品は表紙がワイルドです。

  

表紙がモノクロの写真でおしゃれ。エンタメ系と違って考えながら読みます。

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