コーヒーブレイクde翻訳
出版翻訳や、翻訳道場を始めとする翻訳指導など、日々の業務で感じたことをつづっています。
版を重ねるとき(16/10/24)
ありがたいことに、『千の顔をもつ英雄 上』(早川書房)の重版(五刷)が決まりました。訂正箇所があったら(何日)までにお知らせください、という連絡をもらったので、急ぎ担当箇所を読み直しました。

初版が出てすぐに重版が決まり、読み直して17ページに訂正を入れていますが、今回も気になる箇所が見つかって、21ページに訂正を入れました。すると編集者から次のような趣旨の返事が。

明らかに間違っている箇所だけにしてほしい。ページや段落が増えたり減ったりする訂正は避けてほしい。

おっしゃる通りです。ページ数や段落の長さに影響するような訂正では、版を作り直さなければなりませんから。それはわかっているつもりでした。でも1か所だけ、それに引っかかるところがあって、訂正しなくても内容的には問題がなかったので、取り下げました。

初版を買った人と、五刷版を買った人では、その部分を読んで受けるイメージが違ってくるのは必至です。申し訳なく思います。でも、これはマズイ、と気づいたら訂正したくなります。翻訳者として、できるだけ誠意を示したいのです。

以前、作家だったか翻訳家だったか、大御所だったと思いますが、版を重ねるたびに手を加える人がいる、と聞きました。それは読者に対して失礼だろう、という意見があった一方で、訂正することでより良い作品になるなら、訂正もしかたないだろう、という意見もありました。

読者は最初に手に取った本を買って、それ以降には買いなおさないのが普通ですから、その意味では、訂正は読者に対して失礼です。でも、明らかに間違った表現でなくても、もっとふさわしい表現に変えることで作品の質を高めることができるのなら、その方がいいと思います。本は残りますから。

「できるだけ誠意を示したい」というのは、良質な作品を読者に提供することと同時に、自分の責任を取ることでもあります。初版からそのようにできなかったことの責任を負い、訂正を申し入れて、できるだけの処置を施す。もしかしたら、編集者に見放されるかもしれないという恐怖と戦いながら。でも作品にきちんと向き合うのが翻訳者の筋ですから。だから、今回も申し入れました。編集者さん、お手間かけて、ごめんなさい! 

どうか、たとえ版を重ねても、もう訂正箇所が見つかりませんように。

付箋がいっぱい(涙)。たった一文字だけのページもあれば、字句の入れ替えや書き換えがあるページも。

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