コーヒーブレイクde翻訳
出版翻訳や、翻訳道場を始めとする翻訳指導など、日々の業務で感じたことをつづっています。
Love、どう訳しますか?(17/07/17)
ある本に次のセリフが出てきました。

…… “How do you know I’m not dumb? Isn’t it just because you love me?” “I love you, but that’s not what tells me. …”

「どうして頭が悪くないとわかるの。わたしを愛しているからそう思うんでしょ?」「おまえを愛しているよ。でもだからじゃない」

このセリフ、父親と中学生の娘の会話です。親子だったらなんと言うか。ま、親の立場で考えるのですが、そうしたら「かわいい」が一番合いますね。存在すべてをいとおしく思う「可愛さ」。三省堂の大辞林には、「深い愛情をもって大切に扱ってやりたい気持ち」とあります。したがって、「あたしがかわいいからそう思うんでしょ?」「おまえはかわいいよ。でもだからじゃない」となります。

英語のloveは、男女の愛、子どもやペットへの愛、神への愛、物事への愛など、広く使われます。だから日本語にするときにはどのシチュエーションで使われているかを考慮して訳語を決める必要があります。「愛している」「ずっと一緒にいたい」「かわいいね」「食べちゃいたいくらい」「わたしの心をささげます」「三度の飯より好き」など、いかがでしょう。

ところで男女間の愛、みなさんは家族や恋人に「愛しているよ」と言ったことがありますか? プロポーズでは言うでしょうか。それとも、「好きだ、結婚しよう」と言うか。I love youを二葉亭四迷は「わたし、死んでもいいわ」、夏目漱石は「月が綺麗ですね」と訳したそうです。男女間の「愛」を直接口にすることは、はしたないことだったのかもしれません。または見つめあうだけでその気持ちが伝わる時代だったのでしょう。現代は、映画やドラマで「愛している」がよく使われるので、こそばゆく感じる人は少ないかもしれませんが、それでも現実の世界でこれを聞くことは稀です。わたしなど、小説で「愛している」という文字を見たり、ドラマや映画で「愛している」とセリフが聞こえたりすると、いまだにゾクッとします。だからI love youが出てくると、訳すのにとても困ります。

ただ、西洋の文化を日本の読者に紹介するという翻訳の役割を考えると、男女間の愛および神への愛は、「愛」として表現する方が親切なのではないか、とも思うのです。バタ臭い表現よりも日本語らしい表現の方が、目にも耳にも心地よいのは当然ですが、それでは原作者が表現しようとしているあちらの世界の色を薄めてしまう。このあたりの按配は難しい。内容と訳者の好み、経験と勘にかかってくるでしょう。日々、試行錯誤です。

いよいよ夏本番。今年もすだれを出しました。毎日暑くて、すでに秋が待ち遠しい……。

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