コーヒーブレイクde翻訳
出版翻訳や、翻訳道場を始めとする翻訳指導など、日々の業務で感じたことをつづっています。
河野教室 その3(18/01/24)
10月から通う河野一郎先生の「翻訳家をめざす講座」@神奈川大学生涯学習・エクステンション講座から。
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課題を訳して提出すると、先生が細かく(じつに細かく!)添削してくださるのですが、このところ続けて同じことを注意されました。

それは、接続詞や接続表現の処理によっては文の勢いや緊張感が失われてしまう、ということ。たとえば:

You could hardly hear the thwack of the gun butt when it had landed on the snowy hill of hair on the old man’s head. But the blow had killed him, and…(O.H.Leslie著Tony’s Deathより)
(斎藤訳)銃の台尻が…打ち下ろされた時のガツンという音は、…聞こえなかっただろう。けれどその一撃が老人の命を奪った。
・原文にbutがあるので、正確ではあるのですが、人殺しの場面で「けれど」は緩い。「しかし」だったらよかったかもしれない。または副詞に変えて、「…聞こえなかっただろう。ただその一撃が…」とするか。
(ジーニアスによると、文頭に接続詞butを置くのは、書き言葉では避けたい用法ですが、《略式》ではないわけではないそうです。)

Tony …… trying to look older than his fifteen years(同上)
(斎藤訳)15歳なのに大人びて見せようとするトニー。
・hisがあるので「実年齢は15歳、それよりも(年がいって)」の意味になりますが、「なのに」に相当する表現は原文にはなく、上の「けれど」と同様に緊張感が緩みます。「15歳という歳よりも大人びて」なら余計な意味を含まない訳になるでしょう。

“Tony …”
Unger spoke the name aloud, and the man in the seat beside him turned a curious look in his direction. (同上)
(斎藤訳)「トニーのやつ…」その名をはっきり口にしたので、隣に座っている男が怪訝そうな視線を向けた。
・Unger spokeの文とthe manで始まる文は、順接の接続詞andでつながっているだけ。「したので」では誤訳と言われても仕方ないかも。それに「はっきり口にした。すると男が…視線を向けた」とするほうが、ハードボイルドらしくなります。

先生は、文体やリズム、雰囲気といった原文のスタイルを再現することが大切、とおっしゃいます。上で例にあげた作品は、人殺しで服役していた主人公が、出所してすぐに裏切り者の元仲間を殺そうとする話で、乾いた文で綴られています。わたしの訳だとそういう殺伐とした雰囲気が伝わらないかもしれません。

また、次の二つの訳を比べてみてください。

A)わたしはミミズをベッドに持ち込みました。すると母がこう言ったのです。「このままにしておくと、朝には死んでしまうわよ」わたしは急いでミミズをかきあつめて庭に走りました。
B)わたしはミミズをベッドに持ち込みました。すると母がこう言ったのです。「このままにしておくと、朝には死んでしまうわよ」だからわたしは急いでミミズをかきあつめて庭に走りました。
・雑誌に掲載されたインタビュー記事の部分訳です。生き物なら何でも好きな女の子がミミズをベッドに持ち込んだとき、母親が頭ごなしに怒らず、ミミズを土に戻すように静かに諭した時の話。A)の方が、女の子が焦って急いでミミズを土に戻す様子が感じられます。原文には「だから」に相当する副詞があるので、B)でも間違いではないのですが、入れない方が文に勢いが出るとなると、この場合、原文の一語一語よりもリズムを生かすことを優先するのがよさそうです。誤訳だ、と指摘される恐れはありますが。難しいですね。

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