コーヒーブレイクde翻訳
出版翻訳や、翻訳道場を始めとする翻訳指導など、日々の業務で感じたことをつづっています。
プロフェッショナルとは(18/08/04)
『翻訳地獄へようこそ』をお読みになったでしょうか。翻訳家でお弟子さんをたくさん育てていらっしゃる宮脇孝雄先生の最新のご著書です。おそろしいネーミングでありながらコミカルなタイトルと、その割にというか、そうだからこそだからか、かわいらしい表紙のデザイン、それから「悩める翻訳者と…」の帯文に惹かれて、購入しました。

出版クラブの洋書の森でも何度も講師を務めてくださり、終了後の懇親会でもお話してくださるので、文字を追っているにもかかわらず、先生の声が聞こえてきます。講義を受けているような気分になる学習書であり、先生の素の顔がのぞくエッセーでもあります。

そのご著書刊行記念イベントがありました。残念ながら参加できなかったのですが、出席された方がSNSで感想を述べていらして、その中に、ずっと知りたかった話を見つけました。1冊目の翻訳書を出した後、2冊目、3冊目を続けて出せる人は、「プロフェッショナルに切り替えられた人」なんだそうです。そしてそれは、翻訳の技術が体系化できている、ということで、それができていれば、次々と翻訳書をモノすることができるだろう、というお話だったとか。

この「プロフェッショナル」の話、けっこう前から、ずっと気になっていました。続けて次々と翻訳書を出すことのできる人と、そうでない人との差は何なのだろう、と。洋書の森の縁で、多くの著名な翻訳家と話をする幸運は得られましたが、これを直接聞くチャンスはありませんでした。

翻訳の技術が体系化できる――どういう意味なのか、実際にその場にいなかったので推測するしかありませんが、『翻訳地獄へようこそ』を読みながら考えたのは、翻訳技術そのものを持ち、原文を正しく理解して読者に正しく伝える能力を持つこと。宮脇先生は洋書の森の講座で、「原文通り訳す」「表現を訳す」などと指導されてきました。翻訳技術とは翻訳能力と言ってもいいし、言語能力と言ってもいいかもしれません。平たく言えば、誤訳が少なくて、違和感を覚えさせることなく読者に読ませる訳文を書けること。

もっと平たく言えば、この翻訳家、うまいなあ、と編集者に思わせる訳文を書けばいい、ということですね。プロフェッショナルとは、お金をもらって仕事をすること。お金をもらうに値する作品を提供できなければなりません。次々と翻訳書を出すには、やっぱり翻訳能力を高めるしかないのでした。

ちなみに、一般論としての翻訳のプロの条件を考えてみました。翻訳能力のほかに、約束の期日に間に合うように仕事ができること、そういう段取りができること、というのもあるでしょう。これは翻訳のプロの条件以前の、働く社会人の条件ですけど。

それから、人間的魅力も無視できません。これまでに会ったことのある著名な翻訳家を思い出すと、にこやかな人、人の目を見て話をする人、相手の話をよく聞いてくれる人、控えめながらオーラがある人、楽しそうに翻訳を語る人……、みなさん、素敵です。こういう人たちは自信を持っています。特定のジャンルを得意とする翻訳家は、そのジャンルは言語の枠を超えて大好きで詳しい、という自信をもち、幅広いジャンルをものする翻訳家は、職人としての自信を持っています。(過信ではなく純粋に)自信を持つ人は輝いていますね。ミツバチを魅了する花のようです。

なりたいですね、そういう魅力的な翻訳者に!!

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