コーヒーブレイクde翻訳
出版翻訳や、翻訳道場を始めとする翻訳指導など、日々の業務で感じたことをつづっています。
「は」と「が」(18/10/20)
生まれてからずっと日本語を使っているわたしたちは、主格を表わす「は」と「が」を微妙な感覚で区別しています。ところが英文を訳す段になると身構えるのか、日本語の回路がショートしたかのように、とたんにぎこちない日本語になってしまう例が少なくありません。

日本語文法としての「が」と「は」の違いは、大野晋著『日本語練習帳』(岩波新書)を読むとよくわかります。「は」の基本的な働きは、問題を設定して下に新しい情報を提示することであり、「が」の基本的な性質は、上にくる名詞と下にくる名詞をくっつけてひとかたまりの観念にすることだそうです。また「が」は現象を描写する(新発見の驚きを含む表現)ときに用いられる、ともあります。ぜひ一度、『日本語練習帳』を読んでみてください(P.46~P.88)。

さて、当講座の評伝編ではヘレン・ケラーの自伝を読んでいるので、その中から例を挙げて、訳文の中で「は」と「が」をどう使うかを考察しようと思います。

I was brought before a court of investigation composed of the teachers and officers of the Institution, and Miss Sullivan was asked to leave me. (第3回)

二つの独立した文をandでつないだ重文です。「わたし学校の先生たちや理事で構成される調査委員会に連れて行かれ、サリバン先生同伴を許されなかった。」(試訳)「わたし」については何があったのか、「サリバン先生」についてはどうだったのか、と話題をふって、その答え(新しい情報)を下に示しています。「わたし…連れて行かれ、サリバン先生…許されなかった」では、だれかが連れて行かれたり許されなかったりしたのはわかっているが、なんと「わたし」や「サリバン先生」だったのか、という発見を感じさせてしまいます。

では複文、たとえばWhen I was brought before…, Miss Sullivan was asked to leave me.従属節+主節だったらどうなるでしょうか。

従属節の主語と主節の主語が異なる場合、「わたし…連れて行かれたとき、サリバン先生同伴を許されなかった。」と訳すのが一般的。この文の主節はMiss Sullivan以下の文で、サリバン先生の新しい情報が提示されるので、「サリバン先生」となります。一方When節は主節を補って説明するひとかたまりの副詞と考えられるので、「が」の「くっつけてひとかたまりの観念にする」を適用して「わたし…連れて行かれたとき」としています。

もう一つ例を挙げます。
Mrs. Hopkins was unable to find her copy; but she has told me that at that time, while Miss Sullivan was away on a vacation, she tried to amuse me by reading from various books,….(第3回)
「ホプキンス夫人その本を見つけることができなかったが、サリバン先生休暇で留守の間、わたしを喜ばせようといろいろな本を読んだ、と話してくれた。」(試訳)

長い文ですが、これも第一文Mrs. Hopkins was unable to find her copyと第二文but she has told me that at that time, while Miss Sullivan was away on a vacation, she tried to amuse me by reading from various books,….から成る重文なので、「ホプキンス夫人…できなかったが、彼女…と話してくれた」となります。ただしMrs. Hopkins = sheで主語が同じなので、第二文の主語を省いています(主語の省略については、別の機会にお話したいと思います)

第二文はshe has told me that…が主節。that以下はひとかたまりになってtoldの目的語になるので、「彼女、彼女わたしを喜ばせようといろいろな本を読んだ、と話してくれた」となります。さらにwhile Miss Sullivan was away on a vacationはshe tried to amuse meに対する従属節なので、「サリバン先生休暇で留守の間」となります。


「は」と「が」――添削の中で、ここは「が」の方が自然です、などとコメントを入れていますが、理屈で説明すると、こういうことになります。いかがでしょうか。

訳した文が自然な日本語になっているかどうかは、やっぱり訳文を日本語として声に出して読むことでしか、確認できないのかもしれません。読み直しは大事ですね。

校了から約半年、イギリス発のバレエ絵本が出ました。どうぞよろしく。

帯に、2015年出版のバレエ本を紹介してもらっています。こちらもどうぞよろしく。

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