コーヒーブレイクde翻訳
出版翻訳や、翻訳道場を始めとする翻訳指導など、日々の業務で感じたことをつづっています。
文芸翻訳セミナー@サン・フレアアカデミー、無事終了!(19/08/22)
去る8月17日、サン・フレアアカデミーで「TQE過去問<文芸>を通して読解力と表現力を磨く」というセミナーを開きました。午後2時から5時までの3時間。長丁場の講義がどうなるか、始まる前は不安でしたが、受講生のみなさんのご協力で無事に終えることができました。ありがとうございました。

TQEに関しては下のサイトを読んでくださいね。
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【一時間目】原文から人物像を読み取って、それにふさわしいセリフを考えましょう――この講座でわたしが一番お話したかったことでした。TQEの過去問にあったセリフを材料にして考察しました。

“I never had a chance; ….”

全文を読まず、前後関係を知ることなくこのセリフを読めば、「私には運がありませんでした…」のように処理しがちです。でも全文を読んで前後関係を知り、登場人物の描写に注意すると、それでは物語の色が出ないとわかります。その部分だけを読むのではなく全体を読み、どんな人物か、どんな時代か、どこの話かなど情報を整理して、訳の方針を決めましょう。この場合は、妻に暴力をふるった罪で刑務所に入れられた貧しく教育のない年老いた男のセリフです。みなさんなら、どう訳しますか?


【二時間目】TQEで出題された問題文の続きを事前課題にして、その訳文を添削・返却し、全体の解説をしました。文法的なことや文と文のつながりの説明に終始したのですが、heやshe、Iといった代名詞の処理についても説明したかったと反省。たとえば:

The sick woman seemed to have been anxiously awaiting his coming, for her great, earnest eyes fastened themselves upon him, as he entered the room.
「病人は医師が来るのを心待ちにしていたようだった。彼が病室に入ると、彼女が真剣な目で彼をじっと見つめてきたからだ」

日本語訳に注目してください。後半は「医師が病室に入ると、真剣な目でじっと見つめてきたからだ」でも十分伝わりますよね。前半も後半も主語「病人=彼女」の動作や様子を表わしているからです。…というような話を。次に機会があったら、忘れないでこれを話そうと思います。


【三時間目】『イギリス民話集』(岩波文庫)と『夜ふけに読みたい 不思議なイギリスのおとぎ話』(平凡社)の中のThe Ass, the Table, and the Stick(それぞれ邦題は「ろばとテーブルとこん棒」「ロバとテーブルと棍棒」)を使って民話の訳を比較検討。時間の都合で資料を配るだけで終わってしまいましたが、訳文の形が違うことは一目で確認できました。

実は、本の装丁や語りかけるような訳文の調子から、平凡社版の方が平易な日本語になっているだろうと予想していました。ところが講義前の予習で冒頭部分「父親にいじめられるので」(岩波文庫)と「父親と折り合いが悪かった」(平凡社)を読んだとき、1991年初版の岩波文庫のほうが平易? と驚いたのです。他にも「帰省」(岩波文庫版では「父親の家をめざして」)、「実家」(同「父親の家」)があって、子どもに読み聞かせるお母さんにはなじみのある表現だなあ、と思いました…というような比較検討を受講生のみなさんとしたかったのでした。どうぞ本を買って読んで、訳文の違いを感じてくださいね。


最後に、短い民話の一部をその場で訳して発表してもらう演習もしました。時間はかかりますが、参加型セミナーになって面白いですね(受講生は緊張するでしょうけれど)。


文芸翻訳は、英文字の羅列の向こうに物語があって、それを日本語で表現するためにあれこれ考えるのが楽しいんです。思うように訳せない苦しさもありますが、面白いですよ。TQEも入り口の一つとして、どうぞご活用を。文芸翻訳の世界へようこそ!

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