コーヒーブレイクde翻訳
出版翻訳や、翻訳道場を始めとする翻訳指導など、日々の業務で感じたことをつづっています。
雑談は無駄ではないのですよ(19/04/25)
先日ある講座で、初めて参加した人からこんな質問が出ました。とても不満げに。

「この授業は、ずっと雑談で進むのですか?」

それは恩師の河野一郎先生による社会人向けの翻訳の授業で、名詞を動詞に変換して訳すと日本語らしくなるなどという翻訳のテクニックだの文法だのを教えるのではなく、文化としての翻訳を多角的に考え教授する授業なのでした。事前の告知では、ある程度の英語能力(英検準1級以上、TOEIC700点以上)を有している人を対象として、訳文を作るための基本を学ぶ、とあり、さらに課題の添削をする、とあるので、そこだけを見て受講を決めれば、想像していた授業と違う、と感じる人もいるかもしれません。

しかし、わたしは声を大にして言いたい。雑談のように思える話も、いつか必ず翻訳の役に立ちます、と(少なくとも、長く受講している人はそう思っているはず)。

その日はヘボン式表記の話から始まりました。ヘボンさんは宣教師であり医師であって、横浜に指路教会をたてたのだが、「指路」とは聖書に出てくる地名Shilohに漢字をあてたもの。漢字の当て方が宣教師らしいではないか、と続きます。西洋の読み物を訳そうとすれば、どこかで聖書の知識が必要になりますね。Shiloh(英語では「シャイロ」と発音するようです)という言葉を初めて知って、得した気分になりました。

それから、ヘボンを英語表記にするとHepburnです、と話は進み、そこからAudrey Hepburnの『ティファニーで朝食を』の話につながり、それに登場する田舎の男のセリフの話になり、そこから方言の話になって、翻訳に方言をどう使うかの話になり……、と「雑談」が知識の宝庫になっていきます。これが楽しくて嬉しくて講座に参加し続けるのです。

こういう授業はずっと以前にもありました。もうひとりの恩師が開いていた講座がそれで、課題訳の解説もありましたが、それよりも、本や文学、出版の話に時間をかけていました。そういう話を聞き続けることが、英語の向こうにあるはずの人間の息吹や情を感じたり、同じように命の宿る日本語を綴ったりする訓練になり、言語の「勘」の栄養になったと思います。それに出版界の事情を知る場にもなりました。

ああ、あの方に教えて差し上げたい。この授業はね、目先のテクニックではなくて、文化としての翻訳の本質や、翻訳者として必要な能力に気づかせ、翻訳者としての覚悟を持たせるための授業なのですよ、と。もし英文解釈に重きを置く勉強をなさりたいのでしたら、ぜひこちらへ → 「文芸翻訳通信添削実践講座」
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薄暮に映える満天星ツツジ(奥)。これも漢字の表記が見事!

この時期はツツジ各種の饗宴です。そして夏までの間に剪定作業が…。

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